いつか自分の身に降りかかってくるかもしれない「痴漢えん罪」。潔白を証明しようと思っても、無実を証明するのは困難で、早く留置場を出たいという気持ちから罪を認めてしまう人も多いという。その結果、刑事事件化すると有罪率は99%以上ともいわれている。
一般の人の感覚からすれば「警察官や検察官がいい加減な捜査をするはずがない」「裁判官は正しく判断してくれる」と思いがちだが、実際は最初の取り調べで被害者の供述をほぼ採用した一方的な警察官調書が作られることも。最高検検事を務めた日比谷ステーション法律事務所の弁護士・粂原研二さんはこう指摘する。
「一度これに署名してしまうと、その後、いくら否認しても覆すことは難しく、検察官や裁判官の判断もこの調書に影響され、〈逮捕→勾留→勾留延長〉の手続きがベルトコンベア式に進んでしまう」
つまり、潔白であっても取り調べで容疑を認めてしまえば条例違反の痴漢容疑ならすぐ釈放される。その反対に、潔白を訴え続ければ勾留されて、長期間拘束が始まってしまうのだ。
拘束が長引けば、多くの人は職を失い、なかには離婚・一家離散に至るケースも少なくない。そんな現実を前に、罪を認めて釈放を選ぶか、無罪主張を貫くかは、プライドと損得計算がせめぎ合う非常に難しい決断でもある。2002年結成の痴漢えん罪ネットワークの事務局長は言う。
「近年増えた痴漢えん罪の無罪判決はごく一部。無実なのに罰金を払ったり示談にしたりした人の数は不明ながら、現在も毎月のようにえん罪の相談があるのも事実です」
※女性セブン2015年11月12日号