日本では高血圧学会が血圧を「140(mmHg)未満」に抑えるべきと推奨してきた。しかしアメリカの最新研究が最高血圧120以下を提唱し、日本の高血圧医療を揺るがしている。現行の高血圧の治療ガイドラインでは「140未満」が目標とされてきたのに、もしガイドラインが「120未満」まで引き下げられることになれば、高血圧患者やその予備群にとっては青天の霹靂である。
厚生労働省の国民健康・栄養調査報告(平成25年)によれば、日本人の成人男性の平均血圧は135.3、女性は129.5で、どちらもすでに120を超えている。仮に現行の140未満が120未満に引き下げられた場合、男性の43.3%、女性の38%が新たに高血圧に含まれてしまうことになるのだ。今まで高血圧の範疇に入らなかった多くの人々が、続々と“患者”の仲間入りすることになる。
新聞各紙の報道で、多くの高血圧患者が「120未満」という数字を目にしたため、診療現場でも、患者や医師の間に混乱が広がっている。くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長は現状をこう話す。
「記事を見た患者さんから、『先生、今まで140まではいいといっていたのに、新聞では120未満といっている。ホントにいいんですか?』と聞かれることが増えました。どっちが正しいんだというのが率直な気持ちだと思います。今後ますます増えるでしょう。
私は今まで通り、『あなたが元気だったらいいんです』と答えています。日本人と欧米人は体質も違いますから、欧米の報告をすべて正しいという風に考えなくていいんじゃないかと」
そうはいっても不安になるのが人間で、「血圧を下げる薬をもっと処方しろ」と言い出す患者が出てきても不思議ではない。
※週刊ポスト2015年11月13日号