第3話の視聴率が18.6 %と、今期ドラマの最高を記録した『下町ロケット』(TBS系)。脇役ながら抜群の存在感を発揮しているのが、立川談春だ。落語家でありながら、本職の俳優たちを食ってしまうほど。ほかにも落語家たちの活躍が目立つ今期ドラマ。“落語家俳優”についてコラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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最近、ドラマで落語家が活躍している。その筆頭は、『下町ロケット』の立川談春だ。下町の小さな製造業「佃製作所」に白水銀行から出向して経理を担当している殿村(談春)は、夢を追いかける技術者社長の佃航平(阿部寛)の言動を常に冷ややかにチェック。熱血営業社員らとも対立しがちだったが、大手企業から不正な特許侵害裁判を起こされて会社が倒産のピンチになると俄然存在感を発揮する。
そして劇的な勝利ともいえる裁判の結果、56億円もの和解金が入ることになり、大喜びをする佃社員の前でただひとり「確かに当面の資金難は免れました。しかし…」と会社がまだ安泰でないことを冷静に分析。「とてもあぐらをかいていられるような状況ではない」ときっちり話すのである。
このシーンを見ていて、「さすが」とうなった人も多いはず。なにしろ、この場面だけでざっと50秒のひとりしゃべり。セリフの量は大変なものだと思うが、よどみなくすらすら~っと届いてくる。さすが話芸の人である。
さらに見せ場は続く。和解金の話を聞きつけ、さっそく佃にやってきた白水銀行の支店長根木(東国原英夫)と融資課課長柳井(春風亭昇太)との対面だ。談春VS昇太の落語家対決。柳井は佃の開発した製品について「利益を生まない開発品などガラクタも同じだ」と言い捨てた人物である。殿村は、危機の際に佃を容赦なく切り捨てようとした二人にきっぱりと決別を宣言する。いやー、阿部ちゃんの「あんたらみたいな腐った銀行マンがこの国の未来まで腐らせるんだ!」という啖呵もよかったけど、殿村の「お断りします!」の一言も気持ちよかったですね。
ご記憶の方も多いと思うが、談春は昨年、同じ日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』では敵方だった。敵にも味方にも見える得体の知れなさはとても貴重だと思う。
得体の知れなさといえば、朝ドラ『あさが来た』に奈良の豪商・玉利友信役で登場した笑福亭鶴瓶。嫁ぎ先の両替商加野屋のために借金をしにきたヒロインあさ(波瑠)が、これから新しい商売をして金を返すつもりだという話を聞いて、あさとじーっとにらめっこ。その結果、「目泳がへんな」と彼女の度胸を評価し、「あんた、もうじき日本一の女商人になるで」と無利息で金を用立てるのだった。商人のしたたかさと豪快さ。善人悪人の区別とは一味違うこの得体の知れなさもよかった。
思えば、ドラマ出演が多い鶴瓶はかつて『必殺仕事人V激闘篇』では悪を抹殺する仕事人でもあった。必殺シリーズには、故・古今亭志ん朝も噺家役塩八役でレギュラー出演していて、なんと悪人を得意の話芸で催眠術にかけて惑わし、抹殺するというマネのできない必殺技を見せていた。塩八は瀕死で高座に上がり死んでいく。個人的には、この志ん朝がベスト・オブ・落語家俳優である。
年末には、談春原作の『赤めだか』がドラマ化され、ビートたけしが立川談志、二宮和也が談春を演じるほか、濱田岳が立川志らく、柄本時生が立川談かん、宮川大輔が立川関西新井浩文が立川段ボールなど、俳優陣が落語家を演じる。得体のしれない演技派が大集合。どんな落語家ぶりを見せるのか!? 気になる。