本来、外交上手だった日本人だが、近年は中国や韓国の暴走を許し、ロシアとの北方領土交渉も暗礁に乗り上げるなど、“敗戦”続きとなっている。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、日本が「強い外交」を取り戻すための処方箋を提案する。
* * *
ここまで外交下手になったいまの日本に外交力を取り戻すことはできるのでしょうか。
アメリカがオバマ政権の下で後退を続け、その隙をつく形で中国やロシアが影響力を増し、我々とは相いれない価値観に基づいた世界秩序の構築を目論んでいます。この両国の動きをよく見て、アメリカの消極姿勢が日本にもたらす負の影響の深刻さを認識すること、脅威の認識がまず第一に必要です。日本人の命を守るのは日本国政府でなければならない、日本国を守るのも日本国政府でなければならないという世界の常識に立ち戻ることです。
そのうえで、具体的にどのように外交力を再生していけるのかと考えれば、日本の根底を成してきた価値観を高く掲げ続けることだと思います。日本が国際的に貢献する方法は軍事力よりも、日本らしい価値観を活かすことです。
例えばODAは、「無駄遣い」と批判されることもありますが、その根底にある精神はとても日本的です。日本のODAは、現地に技術指導者を派遣し、現地の人材を雇用して彼らに技術を伝承し、育てるものです。「魚を与えるよりも魚の獲り方を教える」という理想的な貢献です。日本のODAに失敗例がないとは言いませんが、よく見れば、現地の人々の生活を向上させようという「利他の精神」が貫かれていると思います。
それに比して中国のODAは、お金は出すけれども技術は教えず、労働者も中国から連れていくために、現地の人々の技術修得にも雇用にもつながりません。それどころか中国人労働者がそのまま住み着いてしまい、現地の人々にとって脅威となっています。
かつて日本は台湾を植民地にしました。いまの価値観では植民地など肯定できませんが、それでもその当時、日本が台湾で真っ先にしたのは、学校作りでした。植民地統治を学校作りから始めた国は日本以外にはありません。そこに通底していたのが美しき「利他の精神」であり、そのことを感じとっているために、台湾の人々はいまも親日感情を抱いていると思います。
ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授は「人のためにならなくては、といつも考えていた」と語りました。3年前にノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長もやはり「人のために」がモットーです。
利他の精神ゆえに台湾が親日的になったように、今後もそうした日本らしい価値観を基礎にした国際貢献を拡大していくことが肝要です。
※SAPIO2015年12月号