NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』は11月20日放送回で視聴率25.0%を記録し、大ヒットした『マッサン』の最高記録に早くも並んだ。そんな人気ドラマの演出を巡って、ある論争が巻き起こっている。
口火を切ったのは本誌前号で掲載した「絶対に妾を描くべきだ」という漫画家の小林よしのり氏のコメントだ。史実では、主人公・あさ(波瑠)のモデルである広岡浅子と夫・信五郎の間には娘しか生まれなかった。そこで浅子の実家から呼び寄せた女中を妾にして、彼女が産んだ男児は後に浅子らが創業した大同生命の社長となった。
こうした史実に基づき、「正妻と妾の葛藤や当時の道徳観を正確に描くため、妾をドラマに登場させるべきだ」と小林氏が訴えると、「男尊女卑の象徴である妾など論外」「明治に妾は当たり前だったので登場させろ」「NHKは批判を避けているのでは」と視聴者の間で熱い議論が飛び交った。
妾は歴史を語るうえで、無くてはならない存在になることもある。
「高杉晋作の妾・おうのは晩年の逃避行に同行し、伊藤博文の妾・梅子はのちに夫人となり夫を支えていたそうです」(歴史研究家・河合敦氏)
これほど妾が一般的だった時代なのに、朝ドラは妾を登場させることを避けているように見える。日本の家族観について研究する兵庫教育大学大学院助教の永田夏来氏は、ドラマに現代の価値観を当てはめるのは無理があるとする。
「昔は家制度を維持するために結婚し、本妻が子供を産まなければ妾を取っていた。しかし、戦後の高度経済成長後、結婚の目的は“夫婦の幸せ”に変わりました。考え方がまるで違うのに今の尺度を当時に当てはめるからねじれが生じるのです」
実は『あさが来た』には描かれていない史実がある。
「そもそも史実では広岡浅子自身が妾の子だが、一切触れていない。NHKはシリーズを通して、『妾』の存在を隠し通す方針かもしれません」(テレビ局関係者)
NHK広報室は「妾」を巡る今後の展開を「広岡浅子さんの人生をそのまま描くドラマではありませんので、ご理解をいただければ幸いです」と説明した。
ちなみに史実によれば「男女同権」の観点から妾を認める法律を廃止すべきと主張したのは福沢諭吉だった。『あさが来た』では今後、武田鉄矢演じる福沢が重要な役として登場する予定だが、ひょっとすると「妾論争」のキーマンなのかもしれない。
※週刊ポスト2015年12月11日号