パリ同時多発テロ事件を受けて、多くの日本人の頭に浮かんだのは、「?」だろう。なぜフランスなのか、どんな背景があるのか、理解しがたいことばかり。いま私たちは、「教養」の欠如を思い知らされている。
『人生を面白くする本物の教養』(幻冬舎新書)がベストセラーとなっているライフネット生命会長兼CEOの出口治明氏と、「歴史探偵」として知られる作家・半藤一利氏が緊急対談した。
──パリ同時多発テロ事件をどう見るか。
出口:まず、今回の事件をイスラム教と短絡的に結びつけるべきではないと思います。イスラム教徒が一番多いのはインドネシアで、次がインドやパキスタン、バングラデシュですが、宗教が原因なら、これらの国も欧米諸国とケンカをしているはず。しかし、そうなってはいません。
半藤:確かにその通りです。宗教とは関係なく、欧米諸国が、「テロ国家だ」といって中東をぶっ壊したことが原因の一つです。
出口:2013年にテロで亡くなった人は世界中に約1万8000人いますが、一番多いのがイラクで、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア、シリアの順。イラクとシリアはイラク戦争、アフガンとパキスタンはアフガン戦争がもともとの発端です。つまりイラクやアフガンにあった国を壊したことが、テロが横行するカオスを生んだのです。
半藤:もう一つの原因は、さらに時代を遡って、そもそも第一次大戦後に中東でめちゃくちゃな国境分割をしたことにあると思います。
出口:おっしゃる通りで、中東の歴史を遡る視点をもたないと、IS(イスラム国)の問題は見えてきません。
第一次大戦のとき、大英帝国は、オスマン朝支配下のアラブ人に独立を約束して反乱を起こさせ、アラビアのロレンス(※注)と一緒に反乱軍がシリアに入っていった。その一方で、フランスには、シリアの権益を与える約束をしていた。終戦後、シリアにはハーシム家の王国がすでに成立していましたが、オスマン朝から奪ったイラクに王家を移し、シリアの権益をフランスに与えたのです。
【※注/映画『アラビアのロレンス』のモデルとなった英軍人のトーマス・エドワード・ロレンスは、オスマン朝に対するアラブ人の反乱を支援した】
半藤:英仏の密約はシリアに知らされていなくて、突然、フランスが出てきたのだから、シリアのフランスに対する恨みは根強くある。今回の事件でフランスが狙われた背景には、そうした歴史があることを知る必要があります。