11月30日に亡くなった漫画家の水木しげる氏(享年93)。国内では追悼番組が相次いで放送され、その訃報は米国、フランス、中国と世界中で伝えられた。
同時期に活躍した手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏が「ヒーロー」を題材にした漫画を描く一方で、水木氏は「妖怪」や「悪魔」といった奇っ怪なキャラクターを描いた。
今年5月まで『ビッグコミック』で連載された『わたしの日々』(小学館刊)の担当編集者・西村直純氏は、水木氏は人とは違う視点を持っていたと語る。
「とにかく珍しい人が好きでした。例えばスゴい巨漢とか、スゴいのっぽとか。大ヒットしたNHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』が始まる直前に催されたあるパーティーでのことです。ヒロインを務めた松下奈緒さんが挨拶に来た際には、先生はごく普通な感じの挨拶だったんですけど、その後、国際結婚をした知人が金髪の奥さんを連れて挨拶に来ると、その女性に興味を持たれて、それはそれは熱心に話されていました。“先生にとっては、松下さんより金髪なんだなぁ~”と思ったことを覚えています」
それでも『ゲゲゲの女房』が朝ドラに決まった際には、喜びを隠しきれない様子だったという。
「気恥ずかしそうに“またみんなで水木サン(水木氏は自分のことをこう呼ぶ)を取り上げますか? もういいんじゃないんですかね”なんておっしゃってましたけど、先生はご自分が取り上げられるのは、お好きな方なので喜んでいたと思いますよ」(西村氏)
水木氏の故郷・鳥取県堺港市にある「水木しげるロード」の企画実施を行なった黒目友則氏は、水木氏の愛すべき人柄をこう回想する。
「先生に言われた“境港を愛してる”という言葉が忘れられません。それと『水木しげるロード』に妖怪の銅像を並べるときに、片側に善い妖怪、もう片方に悪い妖怪を並べようとしたんですが、先生は“悪い妖怪はいないよ”って。本当に妖怪に愛情を持たれていたんだと思います」
※週刊ポスト2015年12月18日号