中国では近年、旧日本軍の残虐な行為を描いた「抗日映画・ドラマ」が量産されている。中国共産党のプロパガンダだから量産されているという評価は、必ずしも正確ではなく、純粋に有望なビジネスでもあると、近著『中国人の頭の中』(新潮新書)で「抗日もの」の実像に迫ったノンフィクション作家・青樹明子氏は分析している。抗日ドラマはなぜ規制されず、ステレオタイプな「悪い日本人」を描き続けるのか、青樹氏が解説する。
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中国のテレビドラマ界では、あるジャンルが流行するたびに当局が規制する、といういたちごっこが繰り返されてきた。2002~2004年にかけては警察ドラマ、2004~2006年は時代劇、2008年からはスパイもの、という具合。抗日ドラマの量産は「規制の少ないジャンル」を制作側が探った結果でもあった。
ドラマ制作は投資対象であり、出資で集めた何十億円もの資金を投じる一大プロジェクトで、失敗は許されない。安全な作品ジャンルを制作者が懸命に研究した結果、たどり着いたテーマが「抗日」だった。
その結果、特に2008年以降は抗日ドラマが量産されるようになる。放送から10年以上経った『亮剣』(剣が光る。2004年)は、『水滸伝』の抗日版といわれる『永不磨滅的番号』(永久に消えない番号。2011年)などとともにテレビ放映後、ネット動画で繰り返し視聴され続けている人気作品だ。
量産された結果、視聴者を飽きさせないために、ありとあらゆる抗日ものが考え出された。“抗日スパイ劇”“抗日恋愛劇”“抗日家庭劇”などなど、「抗日ドラマの百貨店」的様相を呈している。
中でも話題になったのが「抗日雷劇」である。日本語に訳せば「奇想天外・びっくり仰天ドラマ」といった意味だろう。手刀で人間を真っ二つにしたり、日本軍に囚われた中国人女性が空を飛んで脱出したりといった荒唐無稽な演出が施される。そこで登場する日本人の「人間性」が描かれることはない。レイプを繰り返し、中国人を容赦なく惨殺するというのがお約束のパターンだ。
そこまでステレオタイプな日本人が描かれるのには理由がある。
中国の有力紙「南方週末」(2013年3月7日付)によると、ある中国人映画監督は、検閲機関から80項目以上にわたる「改訂意見書」を受け取ったことがあるという。そこには、「日本軍の残虐性、残忍性を強調するのはいいが、日本軍の軍事的クオリティに言及してはならない」などの指示書きがあった。その映画監督は、「日本人は簡略化し、白痴化して描くべし」との結論を得たと記事で語っている。
※SAPIO2016年1月号