「認知症1000万人社会」の到来とともに、「認知症予備群」と呼ばれるMCI(軽度認知障害)患者も急増する見込みだ。
だが近年、認知症は生活習慣病の側面を大きく持つことが各国の研究データ等で明らかにされつつある。そのため生活習慣を見直すことで認知症を予防でき、MCIの症状が改善することがわかってきたという。
「囲碁や将棋の教室に通い始めたMCI患者が、1年後に回復したケースがある」(関西地方の認知症専門医)
米ニューヨークの調査では、週3回以上チェスをする人は、何もしない人と比べて認知症発症リスクが約60%低減したという報告がある。
これまで3万人以上の認知症患者の診療経験を持つ「おくむらmemoryクリニック」院長の奥村歩氏(脳神経外科)がいう。
「同じことを反復するだけの計算ドリルのような脳トレよりも、チェスや将棋など対人頭脳ゲームのほうが圧倒的に認知症の予防効果があることがわかっています。その理由は、脳内の神経細胞ネットワークと『認知予備力』というキーワードで解き明かせるようになりました」
認知症原因の約7割を占めるといわれる物質「アミロイドβ」の蓄積によって一部の神経細胞が損傷・死滅しても、他の残存する神経細胞がその機能を補完すれば認知機能に問題は生じない。
脳内の神経細胞は「シナプス(1つの神経細胞と別の神経細胞を繋ぐ接合部)」によって網目状に繋がっているため、一部分の機能が停止しても“回り道”で伝達されるからだ。
このネットワークを保持する力を「認知予備力」という。簡単にいえば〝脳内の免疫力”である。
最近の研究では認知予備力が強ければアミロイドβを排除してネットワーク機能の低下を防ぎ、MCIから認知症への移行ばかりか、回復さえ促すとされている。
「チェスや将棋に必要な相手の心理を読む“人との駆け引き”が認知予備力の強化に効果的であることがわかっています。
さらに有効なのは、社交ダンスやゴルフのような有酸素運動に“駆け引き要素”が加味されたもの。この手の運動刺激が認知予備力をより鍛えることも明らかになっています」
※週刊ポスト2015年12月18日号