「自由・平等・博愛」を掲げる国の選挙で、排外主義を公言する政党が大躍進した衝撃は大きかった。12月6日、フランスで行なわれた地域圏議会選挙の第1回投票で、極右政党・国民戦線(FN)が得票率トップの28%を獲得。サルコジ前大統領率いる右派連合(同26%)、オランド大統領率いる政権与党・社会党(23%)を上回った。
本稿執筆時点で第2回投票の結果は判明していないが、130人の死者を出したパリ同時多発テロ後、初めて全国規模で行なわれた選挙で示された“民意”の持つ意味は大きい。
FNは元軍人のジャン・マリ・ルペン氏が1972年に結党。同氏は「ホロコーストは歴史の細部」「(アフリカ系移民の多いサッカー代表チームは)純粋のフランス代表ではない」と発言して物議を醸してきた。
2011年に欧州議会議員だった三女のマリーヌ・ルペン氏が党首を継ぎ、今年8月には反ユダヤ的な発言を理由に父を除名。大衆向けの路線に軌道修正を図っているが、現在も排外主義は色濃く残る。内戦が続くシリアなどから大量のイスラム系移民・難民が押し寄せる現状については、「シャリア(イスラム法)を押し付けられる」と受け入れ反対の主張を鮮明にした。
イスラム国のテロによる社会不安がFN躍進の背景にあるとされるが、東京外国語大学大学院総合国際学研究院の渡邊啓貴・教授は別の要因を付け加える。
「FNの伸張の背景には、貧富の差の拡大があります。FNが市長の座を獲得するなど支持を広げているのは、貧困に苦しむ住民が多い地域。移民をわかりやすい悪者として提示する排外主義が、社会に不満を抱く層に受け入れられている。FNにとって本当に重要なのは2017年の仏大統領選で、今回はその前哨戦です。一つでも議席を増やしておきたい選挙で大きな存在感を見せました」
大統領制を持つ国では、民意の“一発勝負”でリーダーが決まる。2002年にはジャン・マリ・ルペン氏が大統領選で決選投票にまで進んだ。その時はリベラルから保守系までが団結して「反ルペン・キャンペーン」を展開。決選投票では当時のシラク大統領が大差で再選を果たした。
しかし、今回の地方選挙ではそのような反FN勢力の結集は今のところみられない。党首のルペン氏とその姪のマリオン・マルシャル・ルペン氏の選挙区での得票率は4割を超え、他党を圧倒した。「ルペン大統領」というシナリオさえ、絵空事ではなくなってきた。
※週刊ポスト2015年12月25日号