絶好調のNHK連続テレビ小説『あさが来た』で新次郎の父親・正吉役を演じる近藤正臣。近藤自身は2か月前にクランクアップした。正吉はよのに看取られて亡くなった。
「上方落語に『東の旅』というお話がありまして。これは大阪からお伊勢さんに、アホな2人がお参りに行く道中記なんです。
それでたまたまなんですが、正吉のせりふに『最後にあんたと一緒にお伊勢さん参りしよ、もう引退したんやから』というような言葉があったので、落語的にやってみました」(近藤・以下「」内同)
そう言うと、実際目の前で落語の演目をするかのように正吉を演じ始めた。
「よのさん、ちょっと来てな、座って。ひさしぶりや、膝借りよ…」
膝枕をしてもらうかのように上半身を倒しながら話し続ける。
「あかん…もう伊勢参り行けなんだ。すまんなあ。ああ…、行きたいなあ。暗峠を越えて、奈良へ出る、榛原から先はもう、お伊勢さんまですぐじゃあ。ああ、賑やかなこっちゃなあ。もうお伊勢さん参り行けなんだ、すまんなんだ」
するとよのさんが「何でも好きなもん、いっぱい買いなはれ、だけど、あんた、買う前にお参りせな」と言う。目を閉じて、少し顔を上げて、そっとつぶやく。
「『せやった、大きな鳥居やなあ。神様頼んまっせ、よのがこれからちゃんと生きていけるように。頼んまっせ…』と言ってポンっと死ぬ。そうしたシチュエーションをイメージしながら最期のシーンの撮影にのぞみました。
正吉という男が生きて、死んでいく時に、どんな死にざまをするかなといくつも考えたわけです。『加野屋を守ってや。しっかりやってな』というのは生きてる間に言っていたに違いない。最後の最後は、夫婦ふたりだから。だから、そんなふうに死んでもええでしょ?と思ったんです」
※女性セブン2015年12月24日号