作家の故吉行淳之介さん(享年70)や女優の吉行和子(80才)の母で、美容師の吉行あぐりさんが、2015年1月5日肺炎で死去した。107才だった。
「あきれるくらい楽天的で頑固者」――長女の吉行和子は最愛の母・吉行あぐりさんをそう評した。昭和初期に美容院を開店して、90才を過ぎてもなお現役美容師であり続けた。
その激動の半生は、1997年の連続テレビ小説『あぐり』のモデルになった。ヒロインを演じた田中美里(38才)は、役作りの際に何度かあぐりさんと話した。
「当時、常連さん限定の美容院をやられていて、見学に行かせていただきました。手元がしっかりされていて、髪を切る姿に見とれてしまいました」
あぐりさんが撮影スタジオに見学に来たこともあった。スタジオの隅でニコニコ笑って立っていて、髪がきれいに整っていたのが印象的だったという。
「ちょうど、ヘアカットのシーンがあったんです。朝ドラは時代考証をきちんと調べてから撮影します。だけど、そのときは、レザー(かみそり)とはさみのどちらを先に使うのかがわからなくて、そのまま撮影にのぞむことになってしまったんです。
本当は逆だったかもしれないと謝ったら、あぐりさんは笑いながら『いいのいいの。どっちが先だって構わないのよ』と優しく言ってくださいました」
あぐりさんは、日本の女性美容師のパイオニアとして、本当は一挙手一投足にこだわりがあったに違いない。
「それなのに『たいしたことじゃないのよ。そんなこと覚えている人はいないし、周りもどんどん死んじゃっているからね』と笑い飛ばしてくださるところに、あぐりさんの格好よさ、強さを感じました。
きっとこの人はどんなにつらいことがあっても笑い飛ばして解決するんだろうと、役作りの上でも勉強させていただきました」
107才の大往生だった。
※女性セブン2016年1月1日号