今は治療法が確立されていない病でも、5年後ならなんとかなる──そんな期待を抱かせる、多くの興味深い研究が世界各国で進められている。もっとも期待されているのは、国内で死亡者数の多いがんだが、がん以外の「三大疾病」でも新治療法が登場している。
脳卒中(脳血管疾患)は脳の血管が詰まる「脳梗塞」と脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」に大別される。
全体の7割を占める脳梗塞は、意識障害や片方の手足のマヒなどが起こる。血管の詰まり(血栓)が原因で、時間とともにマヒなどが大きくなり、早期の治療開始が極めて重要だ。
従来は発症から4時間半以内に薬物を注入して血栓を「溶かす」治療にだけ効果があったが、それより治療開始が遅れても間に合う治療法が登場した。くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長が解説する。
「10年に認可された『血栓回収療法』です。血管にカテーテル(細長い管)を入れ、詰まっている血栓を『回収』します。この方法は脳梗塞発症から8時間までは大きな効果が見込めます」
治療開始が遅れても、命が助かる可能性が上がった。
「今のところ手術を行なえる専門医は少ないが、技術を習得しようとする医師は増えてきている」(同前)
日本人の死因第2位である心不全(心疾患)。一般的に心筋梗塞を発症後、心臓の機能が低下することで動悸、息切れが起こり、症状が悪化する。大阪大学では心筋梗塞の発症後、特定のタンパク質(ペリオスチン)が心臓の機能を弱め、心不全をもたらす仕組みを解明。
さらにそのタンパク質の働きを弱める抗体を研究し、ラットの実験で効果を得るまでに至っている。ペリオスチンの働きを弱める薬を開発できれば、心不全の発症を防げる可能性が出てくる。
古くは石原裕次郎も苦しんだ「大動脈解離」。あまり知られていないが、死に至る可能性が高い病気だ。
大動脈は心臓から送り出された血液が最初に通る大切な血管で、外膜、中膜、内膜の3層構造になっているが、何らかの原因で最も内側にある内膜に亀裂が生じ、中膜にまで血液が流れこんでしまう。発症すると激痛に襲われ、最悪の場合は大量出血で亡くなる。
この病気には、従来の治療法の欠点を補う高性能な「医療器具」が開発された。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏がいう。
「従来、血管の内側に人工血管を挿入する治療法があったが、亀裂部分を完全には塞げなかった。しかし、2015年10月に発売された高性能の人工血管は、亀裂を完全に塞げるようになった。普及には数年かかると思いますが、救える命は増えるでしょう」
※週刊ポスト2016年1月1・8日号