2016年のプロ野球の3人の新人監督、高橋由伸(巨人)、金本知憲(阪神)、アレックス・ラミレス(横浜)はそろって外野手出身だ。野村克也氏は外野手出身の監督に名監督はいないと指摘する。外野手は考える習慣を持っていないからだという。それでは他のポジションの出身者はどうのか、野村氏が語る。
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まず投手出身者は投手心理が理解でき、継投のタイミングがわかるという利点はあるが、彼らは基本的に「お山の大将」だから視野が狭い。現役中は打者と捕手しか見ていないのだから当然だ。
その点、内野手はまだいい。横の連絡、外野との連携が必要なので、総合的な視野が広い。私が名監督と考えている三原脩(西鉄など)、水原茂(巨人など)、鶴岡一人(南海)、川上哲治(巨人)、西本幸雄(阪急など)の私が名監督だと考えている「5大監督」がすべて内野手であることを考えても頷けるところだ。しかし、細かい点を見ているという点では、やはり捕手の右に出る者はいない。
捕手は監督以上の仕事をやっている。試合前から様々なデータを駆使して相手打者の分析をしているし、一度試合に入ればそれを元に、打者の反応を観察・判断して実行に移す。1球ごとに繰り返すこの作業によって、いかに「打ち取る」という答えに導いていくかが重要なのだ。この投手なら何点に抑えられるかという仮想ゲームを頭でやり、実際の試合を組み立てていく。捕手はいわば「脚本家」なのである。
現に捕手出身監督は、ことごとく日本一になり、連覇も果たしてきた。上田利治、森祇晶、そして手前味噌ながら私。この伝統をぶち壊したのが、田淵幸一と大矢明彦だ。
特に田淵は捕手の性格ではない。私は現役最晩年の2年間、西武で一緒にプレーしたことがある。田淵がレギュラーで私が控え。ロッカーが隣同士だったので、ある日の試合後、「なんであそこでストレートを要求したんだ。根拠は何だ」と聞いたことがあった。
私は、捕手は「根拠のないサインだけは出してはいけない」と考えているし、どの球団でもそう教えてきた。試合中も右目でボールを受けて左目で打者の反応を見ろ、漫然とサインを出しているようでは捕手失格だ、理路整然と説明できるサインを出し、万が一それが打たれたなら仕方ない……そうやって考えに考えろと指導してきた。
そんな私に、田淵から返ってきた言葉は、「イヤだなノムさん、投げているのは投手じゃないですか」だった。コイツはダメだと思った瞬間だった。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号