近年、「モンスタークレーマー」という単語もすっかり一般的になったが、それが正当なクレームなのかモンスタークレーマーなのかの線引きは難しい。店側は出した料理に客が不満を述べ、3回の作り直しを命じた場合、店側は応じる義務があるのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する
【相談】
喫茶店に朝食を食べに行ったときのこと。ソーセージエッグ定食を注文した隣の客が、「焼き加減が甘い」とクレームをつけ、結局は3回も作り直しをさせた挙句に、料金も払わず店を出たのです。この場合、店側は毅然とした態度で客に料金を請求してもよいと思うのですが、法的にはどうなのですか。
【回答】
ソーセージエッグを食べた経験がないので、その焼き加減が品質にどの程度、致命的であるのかわかりません。ただ、かき氷を頼んで、シャーベットが出れば客は怒るかもしれません。
私の個人的な経験上、自宅で作るかき氷がザラメでも我慢して食べますし、バザーの模擬店で知人が作ったザラメのかき氷はからかうだけで、代金を踏み倒しはしません。ほかにも、何百円か払って店で注文するかき氷がザラメだと文句をいいたくもなりますが、突っ返す度胸もないので、素直に代金は支払います。
レストランでの食事は請負に似ていますが、中心は注文した料理の売買です。そこで法的に考えると、(1)注文品と違うものが出た場合、(2)同種でも劣った品質のものだった場合に分けられます。
(1)の場合は、注文品と違うので取り換えを要求できるのは当然です。もっとも、一目見て違うとわかるのに食べてしまうと、出た料理への変更に合意したといえるので、客は代金を支払うべきです。
(2)の場合は、不完全履行とか瑕疵(かし)担保責任などといわれるケースです。予定されている改正民法では、買主の追完請求権が認められることになっています。つまり、ちゃんとした料理を持ってこいといえるわけです。
現行法でも同様に考える立場と、とても食べられない代物なら契約解除するか、食べて代金減額を要求できるだけとする考えもあります。どちらにせよ、問題は契約された料理の品質は何か、出た料理がどの程度その水準から離れているかで判断されます。
絶妙な焼き加減を売りにしたソーセージエッグなのに、ツウの目でそれに及ばなければ取り替え要求もやむなしですが、普通の店で通常程度の料理が出れば、店としては契約上の義務を果たしたことになりますから、作り直しを拒否して代金請求できるでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号