2016年は米大統領選が実施される年である。そこに向けて日に日に存在感を増しているのが、差別的な発言を連発しながらも共和党の候補者レースを独走するドナルド・トランプ氏だ。
イスラム国によるテロ事件を受け、「イスラム教徒は入国禁止にすべき」という過激主張を掲げたトランプ氏の支持率はさらに上がった。12月中旬時点で支持率41%、2位に25ポイント以上の大差をつけている。アメリカ政治に詳しいジャーナリストの堀田佳男氏はいう。
「不動産王として1兆円の資産を築き上げたトランプ氏なら『強い指導者』となるのではという期待が人気を押し上げています。“俺なら中東和平も半年でまとめてみせる”などと過激なことをいうほど、喝采は大きくなっている」
共和党の予備選を勝ち抜けば、11月8日、世界中が注目する開票速報で画面が真っ赤(共和党カラー)に染まり、トランプ氏が高らかに勝利宣言──そんな場面が現実のものとなる。
本選のライバルとなるのは民主党の候補者レースを優位に進めるヒラリー・クリントン前国務長官が濃厚だが、トランプ氏と対照的に、ヒラリー氏はテロ対応を突かれると弱い。
「国務長官時代の2012年、リビア・ベンガジの米国領事館をアルカイダに襲撃された事件で、事前に情報機関から警告があったことを隠蔽した疑惑などを追及されています。2016年早々にはそのベンガジ事件を扱った映画も公開される。テロが続けば続くほど、ヒラリー支持は下がる」(大手紙米国特派員)
「トランプ大統領」誕生なら、日本も重大な選択を迫られる。すでに集会演説などでは「日本が攻撃されたら米国は直ちに駆けつけなければならないのに、米国が攻撃を受けても日本が何もしなくていいのはおかしい」と日米安保の片務性をやり玉に挙げ、喝采を浴びている。
「これまでの発言から考えても、“アメリカに守ってほしいなら、日本も相応の軍事的プレゼンスを示すべき”という主旨の主張になる。つまり、集団的自衛権の初行使を急がせるということで、“有志連合に参加してイスラム国への攻撃に加われ”といった要求になる。論理は無茶苦茶でも、『強い指導者』としての姿を見せて支持を広げてきた人物ですから」(前出・堀田氏)
安保法案審議で「アメリカの戦争に巻き込まれることは絶対にあり得ない」と安倍晋三首相は言い切ったが、トランプ大統領誕生でその前提条件は大きく変わる。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号