山口組分裂騒動は、異様な警戒と緊張感のなか年を越した。2016年、どちらの側からいつどのように仕掛けるのか。それとも、抗争せずに収束する、ヤクザの「禁じ手」があり得るのか。ともに暴力団の事情に精通する、ノンフィクション作家・溝口敦氏とフリーライター・鈴木智彦氏が対談した。
──12月18日に、大阪市浪速区で山口組系の秋良連合会の関係事務所に乗用車がバックで突っ込む事件が起きた。襲撃者は逃走したが、警察は神戸山口組とのトラブルではないかと見ている。
鈴木:前日に分裂がらみの小競り合いがあったといわれていて、その報復で突っ込んだようです。警察の定義では、暴力団の抗争は、やってやられてという報復があって抗争ということになるので、一応、そうなったのかなと。
溝口:私は大して重視してない。乗用車がバックで突っ込んでも、大して破壊力はないでしょう。本当にやる気を見せたいならダンプカーでやる。
鈴木:たしかに、殺傷が目的じゃない。アピールですよね。
溝口:最近は、拳銃でのカチコミ(襲撃)は銃刀法の刑が重いから、ダンプカーのほうが有利という考えがある。それより一段下がったのが、乗用車での突っ込み。ただの器物損壊で逃げられる可能性がある。嫌がらせ、警告のレベルでしかない。
鈴木:ただ、何の理由もなく突っ込むことはない。
溝口:秋良連合は、太田興業の太田守正組長が2008年に山口組執行部を批判して除籍引退させられた後、組長代行だった秋良東力組長が地盤を引き継いで作った組織で、六代目山口組の直参(二次団体組長)です。しかし、今回の分裂で、太田元組長は神戸山口組について組長に復帰した。だから、仲間割れが起きているとも考えられる。
鈴木:山口組対神戸山口組の構図というより、内輪揉めに近いということですね。
溝口:秋良連合の一部勢力を太田組長が持っていってしまったから。秋良連合は、戻せといっている。
鈴木:現状では、発端になったトラブル自体が曖昧なまま。その意味では、今回の事件が抗争と呼べるのか、確かに微妙ですね。それにしても、びっくりするほど表面的には静かですね。すでに臨界点は超えているはずなのに。
※週刊ポスト2016年1月15・22日号