北海道のローカル家具屋は、あれよあれよという間に、日本の流通業界の雄に上り詰め、いまやスウェーデン発のグローバル企業IKEAと熾烈な争いを繰り広げている。ニトリHD代表・似鳥昭雄とは何者か。ダイエー中内功氏やソフトバンク孫正義氏ら異形の経営者と対峙してきたノンフィクション作家・佐野眞一氏がその正体に迫る。
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「♪お、ねだん以上。ニトリ……」
一度聞いたらなぜか忘れられなくなるこのテレビCMを最初に聞いたとき、この会社はきっと伸びるぞ、と思った。
その後、ニトリという社名が創業者の名前からつけられたものだと知って、その思いは確信に変わった。
私は、ノンフィクションは取り上げる人物の名前でほとんど決まると思っている。それと同様、企業が成長するかどうかは、創業者が先天的に持っている「星の強さ」で決まる。似鳥昭雄。実に“破壊力”のある名前ではないか。
ニトリの名前は、昨春、日経新聞に連載した「私の履歴書」で、俄かに有名になった。これを単行本化した『運は創るもの』はまもなく4万部を超えるという。業績も好調で、2015年の2月決算で28期連続の増収増益を達成した。国内店舗数は370店を数え、売上高は4000億を超える。目標は3000店、売上高3兆円である。
ニトリは一般的に家具の専門店チェーンだと思われているが、家具の売り上げ構成比は41%。残りはインテリア雑貨などが占める。東京都北区にある東京本部は店舗も兼ねている。インタビュー前その店内を見学して、無印良品の商品構成にそっくりだと思った。
──♪お、ねだん以上。ニトリ……というコピーは、誰が作られたんですか。社長ですか。
似鳥 「あれはうちの社員に募集して、100くらい集まったなかから決めたんです。最初は♪お、ねだん以上、それ以上……だったんですが、『それ以上』は長すぎるから切りました」
──ニトリが家具の専門チェーンでないことは、店内を見学してよくわかりましたが、衣食住でいえば、“住”に特化した商品構成であることは確かです。なぜ、住をターゲットにして創業(1967年)したんですか。
似鳥「競争相手がいない業種を探したんです。いろいろ調べた結果、家具屋だけがなかったんです。先輩たちからも、これからは住宅がどんどん建っていくから、カーテンとかカーペットとかそういうものが売れるぞ、という話を聞いたのもヒントになりました」
似鳥が「住」関連の商品に目を付けたのは、たぶん引き揚げ体験と密接に関係している。戦後の貧しい時代でも、「食」はそこそこあったし、文句さえいわなければ「衣」もあった。 言葉を換えれば、似鳥は寒い日には家の中に雪が吹き込む貧しい引揚者住宅体験を、いわば逆手にとってビジネスチャンスをつかんだのである。
似鳥「もう、まったくこんなに成功するとは、夢にも思いませんでした」