ドローンという言葉はすっかり市民権を得た。今では1万円を切る価格のものも多数あり、趣味の一つとして大人から子供まで幅広いファンを持つ。
そもそもドローン(無人機)は軍事用として開発された。その歴史は古く、第2次世界大戦以前から基礎研究が行われ、試作機も作られた。目標は、人間にとって危険な任務を代わりにさせることだ。
米ソが核ミサイルを突き付け合う事で平和が保たれていた東西冷戦時代。軍事衛星の精度は今ほど高くはなく、有人偵察機で敵地に侵入するなど、かなり危険な任務が行われていた。偵察は戦闘行為に他ならない。バレたら意味がないどころか、戦争の口実とさえなってしまう。
1960年5月1日、ソ連領内に侵入し偵察していた米空軍機U-2が、ソ連の対空ミサイルに撃墜された。パイロットはソ連当局にスパイ容疑で逮捕され、アイゼンハワー大統領(当時)もスパイ行為を認めるなど異例の事態となった。
東西冷戦中、こうした事件が多発したため、米国では無人機の開発が加速度的に進んだ。核戦争となった時に備え、被ばくを恐れず突き進むロボット兵士まで構想されたという。とはいえ、当時の技術では自立飛行や自立走行が可能なロボット兵器には程遠く、無線誘導式の“大きなラジコン”という言葉が相応しいものだった。
1995年、遂に傑作UAV(*)と呼ばれるRQ-1プレデターが登場する。早速ボスニアやアフガニスタンなどの紛争地に投入されたが、悪天候や操縦ミスなどで3分の1を喪失。敵に見つかり、撃墜される機体もあったため、その後、1万mを超える高高度を飛行できる全天候型のUAV開発が進められた。
【*軍事用ドローンには、無人偵察機に代表されるUAV、自立走行可能な無人車UGV、海上を無人航行するUSV、海中を無人潜航するUUVなどいくつか種類がある】
一方、高度数十mという低い場所を飛行するUAVも続々と開発され始め、今では地上からの目視でばれないように鳥や虫に偽装する、変わり種の小型UAVへと進化している。
陸上においても、偵察任務用のUGVが登場。市街地戦闘の際は、まずカメラを装備したUGVを送り込み、遠隔操縦で町や建物の中を捜索する。万が一、敵に見つかり攻撃されても人的被害はない。
さらに、地雷などの爆発物処理のような、人間が行うには危険で過酷すぎる任務の代わりとなるUGVが登場する。偵察用ロボットの車体に、爆発物を掴み上げる“手”を付けたのだ。
これが大成功を収め、世界中の軍や警察で使われることになる。日本の警察にも配備され、APECなど実際の警備にも投入された。世界中でトップシェアを誇るのが爆発物処理用UGV「タロン」だ。
軍事用で培った技術は現在お掃除ロボット「ルンバ」として各家庭にも普及している。
※SAPIO2016年2月号