昨年12月25日、千葉県がんセンター(千葉市中央区)は、早期乳がんの患者Aさん(30代)と進行乳がんの患者Bさん(50代)の検体(検査の材料となる血液や組織)を取り違え、誤った診断により、Aさんの右乳房を全摘出する手術をしたと発表した。
この事故の背景の1つには、「個人情報保護がある」と指摘されている。個人の名前や病名が漏れるのを防ぐため、近年、外来受付などで名前の代わりに番号を呼ぶ病院が増え、入院病棟の病室にネームプレートを掲げない病院も多い。番号管理であるがゆえに、病院が番号と氏名の照合確認を怠れば、ミスに直結する。
千葉県がんセンターの場合、さらにミスを誘発する原因があった。資料によると、同センターでは、患者から採取した検体を、氏名や数字8桁のIDを書いたラベルを貼った容器に入れていたが、そのラベルは手書きで作成されていたのだ。容器が検査担当の病理部に運ばれると、そこで、それまで書かれていたIDとは別に、新たに病理番号が割り振られる。それも手書きだった。
千葉県議会員・丸山慎一さんはこう語る。
「名前なら誤字に気づきやすいかもしれませんが、数字や記号だと間違っていてもわからない。例えば“0”と“6”を間違えるとか、1字だけ書き違ってしまうとか、リスクが高くなります」
原因はこれだけではない。“医療従事者の不足” が事故を起こしやすくしている、と明かすのは、地方の中堅病院に勤務していた婦人科医師だ。
「地方のがんセンターや大学病院は医師不足であることが多い。それでもその地域にとっては大病院ですから、1日に患者さんが40人、50人と外来にきて、次から次へと対応しないといけない。特に、今回問題が起きた千葉県は他の都道府県に比べて医師が少ないんです。
医療は人が行うことなので、ミスは起きてしまいます。減らすよう努力しますが、医師や看護師が疲弊していれば、チェック体制に漏れが生じる可能性は高くなるでしょう」
また、AさんとBさんが検査を受けた「昨年10月」という時期に注目するのは、ベルーガクリニック院長の富永祐司さんだ。
「その直前、北斗晶さんが乳がんに罹っていることを公表しました。しかも、北斗さんは毎年検診を受けていたけど、そこでは発見されず、進行してしまっていた。そのことが報道されると、どの病院にも検診希望者が殺到したのです。
医師も看護師も対応に追われますが、特にパニックになったのは、検体を扱う病理部だったのではないでしょうか。病理部は常時人が足りていませんが、患者さんから採取した細胞を容器の外に出し、標本を作るのはそこです。
千葉県にはがんの診断ができる病院は少ないので、センターに患者が集中し、病理部では技師さんが大量の検体と向き合っていたのではないでしょうか。そこでミスが起きた可能性が高いという見方もできる」
※女性セブン2016年1月28日号