昨年、日本を訪問した外国人旅行者は過去最高の1800万人(1~11月)。その玄関口となる成田国際空港の第2旅客ターミナルビルには、大型LED映像パネルに外壁を囲まれた色鮮やかなショールームがある。
『GALLERY TOTO』――水まわり住宅総合機器メーカーのTOTOが、「外国人に実際に使ってもらおう」と展開する、体験型トイレ空間だ。約145平方メートルの敷地にトイレや授乳室など計10ブースが立ち並び、多くの外国人が興味津々で次々と訪れる。
TOTO東京広報第一グループの山崎千聡氏が話す。
「近づくまでは “何かのショップかな?”と思わせるような外観なんです。訪日されたかたがたに“日本のトイレはすごい!”という記憶を焼きつけてもらうことと、帰国後に各国でPRしてもらう狙いがあります」
この年末年始も、まったく嫌なにおいがしないトイレを体験し、多くの旅行者が驚きを隠せない様子だったという。
そもそも、日本のトイレは海外からの評価がすこぶる高い。昨年、日本に押し寄せた中国人旅行客は、温水洗浄便座をこぞって「爆買い」。ハリウッド俳優のウィル・スミスや、世界的歌姫のマドンナも温水洗浄便座のとりこなんだとか。しかし、昔は違った。日本トイレ協会の高橋志保彦会長が振り返る。
「高度成長期1970年代まで、日本のトイレは和式便器がほとんどで、『臭い』『汚い』『暗い』の3Kでした。日本社会にトイレを重視する余裕がなかったんです」
転機は日本が豊かになりつつあった1980年。この年、TOTOが、アメリカで医療器具として使われ国産化・販売していた温水洗浄便座をベースに開発した初代「ウォシュレット」を発売した。
その後、“トイレがトイレを洗う”自動洗浄機能や、環境に配慮した節水技術、便座のふたが「おじぎ」するようなオート開閉など、日本のトイレは、外国人が驚く「進化」を続けた。便座に靴下をはかせるような「便座カバー」や排泄時の音をかき消す擬音装置は、日本らしい細部へのこだわりだ。
日本でトイレ文化やトイレ技術が発展した最大のカギは「狭さ」にある、と山崎さんは言う。
「海外では、浴室と洗面とトイレがひとつにまとまった『スイートルーム』が標準ですが、日本のトイレは独立していて、しかも狭い。限られたスペースを有効に使うため、日本人はトイレの利便性を突きつめていったんです」
2015年3月の内閣府調査によると、国内の家庭における温水洗浄便座の普及率は77%を超える。海外への輸出も視野に日本のトイレはさらなる進化を続けている。
※女性セブン2016年1月28日号