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小谷野敦氏 甘ったるい「スイーツ小説」が幅を利かせている

 2015年は文学界にとってどんな年だったのか。お笑いコンビ・ピースの又吉直樹による『火花』が200万部超のベストセラーとなるなど、大きな話題もあった。作家の小谷野敦氏が総括する。

 * * *
 2015年は又吉直樹『火花』の芥川賞受賞が大きな話題になったが、私の評価は偏差値55だ。歴代受賞作の中にはひどいものがたくさんあり、それを考えれば普通の出来である。

 だが、本来なら島本理生『夏の裁断』が受賞すべきだった。これは、過去に性的な傷を抱える女性作家と男の担当編集者との関係を描いた私小説で、痛切なものを感じさせる。主人公は無意味で理解不能な行動を取るが、人間のそうした姿を描くのが純文学の本義である。純文学とは人間の真実を描くもので、その真髄は私小説である。

 だが、人間の真実は醜いから、純文学は読む者を不快にさせ、一般の読者からは敬遠される。そういうものを目利きが正当に評価すべきなのに、目利きが選考委員からいなくなった。

 代わりに幅を利かせているのが「スイーツ小説」である。甘ったるい少女小説のように、「これからは人に優しくしようと思いました」みたいな感想を持たれてしまう小説だ。

 純文学作家が推理小説仕立てで作品を書く傾向も一般に評価できない。推理小説なら推理小説というジャンルで勝負すべきなのに、純文学という保護関税の中に籠もっている。

 しかも、犯罪を描かないと人間が描けないと思っている作家もいるが、人間観が浅い。他に純文学作家に見られる現象として、安倍政権批判の小説を書くことがあるが、俗情と結託した下らない政治小説であり、文学として志が低い。大江健三郎はそんな作品は書いていない。

※SAPIO2016年2月号

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