親しい家族や知人が亡くなり、悲しみに暮れている時に手配しなくてはならないのが「葬式」だ。関係者への連絡などで慌ただしい中、その値段にまでなかなか気が回らない。葬儀業界関係者がいう。
「特殊な状況下で手配しなければならないので、不透明な価格設定が長く温存されてきた。一般的な葬儀費用の相場は120万円程度といわれますが、火葬にかかる費用、棺の値段、祭壇や霊柩車の手配料金など、どのくらいの額が妥当かは素人には判断がつかない。
『ドライアイスは別料金』などと後からオプションを追加してきたり、客が値段を気にしたら“故人様のお気持ちを考えると……”などと断わりづらい営業トークをしたりする業者も少なくありません」
ところが近年、そんな業界が大きく変わりつつある。葬儀ビジネスに新規参入した企業が「定額制」による料金の透明化を打ち出し、シェアを広げているのだ。
まず2009年9月に大手小売りチェーンのイオンが「イオンのお葬式」をスタート。全国の葬儀社と提携し、「追加料金なし」を掲げて定額プランを打ち出した。最も安い直葬(僧侶による読経のない葬儀)プランは19万8000円だ(税込み価格、以下同)。
そのイオンの1か月後に参入したベンチャー企業のユニクエスト・オンラインが運営する「小さなお葬式」は最安プランを19万3000円に設定。さらに2013年8月に葬儀サービス業のみんれびがスタートさせた「シンプルなお葬式」は、自宅飾り一式などを省いた14万8000円という業界最安プランを打ち出した。
そうした新興ベンチャーは格安サービスの提供だけでなく、これまでタブーとされてきた「お布施の透明化」にも踏み込んだ。
火葬や棺の費用とは別に、葬儀に僧侶を呼ぶ場合は寺院への「お布施」が必要となる。「お経をあげてもらい、戒名をつけてもらえば50万円くらい渡すのが相場」(前出の業界関係者)とされてきたが、“心付け”なので、はっきりとした値段設定はなかった。
そんななか、ユニクエストは、「火葬場での読経+戒名付与=5万5000円」「告別式と火葬場での読経+戒名付与=8万5000円」といった定額の寺院手配サービスを開始。
「戒名だけつけてほしい」という利用者のリクエストにも応え、宗派ごとに“ランク”を明示し、「信士・信女(一般的な戒名)2万円」「居士・大姉(信心深い方の戒名)6万円」などと値段を明示したのだ。
※週刊ポスト2016年1月29日号