「定年って生前葬だな」──シニア世代が思わず絶句しそうな書き出しで始まる内館牧子氏の小説が物議を醸している。なにしろ本のタイトルからして『終わった人』。ネット上には、〈「終わった人」とはあまりに厳しい言い方だ〉〈身につまされた〉と、怒りとも共感ともつかない声が飛び交っている。
主人公は大手銀行から子会社に出向させられ、定年を迎えた元エリートサラリーマン。夫婦仲も冷めてしまい、何でもいいから仕事をしたいとベンチャー企業の雇われ社長に就任するも、失敗して倒産。気になる女性ともうまくいかず、あがき続ける主人公……。
エリートでなくても我が事のように感じるシニア世代は少なくあるまい。出版元である講談社の担当者によれば、「反論よりも、『私がモデルじゃないか』という反響が大きい」のだとか。
それにしても「定年は生前葬」というのはショッキングな書き出しだが、内館氏の意図はどこにあるのか。
「私が書きたかったのは、まだ60代という若さで定年を迎える男の『その後』なんです。趣味や旅行やゴルフや好きなことをどっぷりと楽しめる時間ができることは確かですが、そんなものはすぐ飽きますよ。それらは忙しい仕事の合間に、時間を捻出してやるから楽しいという部分がある。
まだ60代の若さで、“毎日が大型連休”の中で、社会から必要とされなくなった自分を感じながら、旅行や趣味に生き甲斐を見出すのは、これは地獄かもしれない。でも外に向かっては『第二の人生が自由で楽しみ』と言ってしまうんですね。見栄で。今回はそんな男を主人公にして、『定年って生前葬だな』とつぶやく日々を描いています。もちろん、明るい方向が結末です」
だがタイトルの衝撃は大きいようで、ネットには、〈「終わった人」である事を認められない……〉という書き込みも。はたして貴兄は、「自分はもう終わった」と開き直れるか?
※週刊ポスト2016年1月29日号