政界に怪文書が撒かれることは珍しくない。だが、年明け早々、自民党と捜査関係者の一部に送付された文書のショッキングな内容は政界を慌てさせ、大メディアの記者たちを「裏取り」に走らせた──。
『握り潰された読売スクープ』──そんな表題が付けられた文書はA4判2枚。冒頭に“読売新聞社会部次長のP記者(文書は実名)”のプロフィールが紹介され、こう始まる。
〈そのPの手元に、平成27年、特定秘密にかかわる資料の束が、ある人物から届いた。日本の情報コミュニティの一角をなす機関。そのエージェントリストと報酬資料などだった。名だたる政治家、評論家、商社マン、官僚などがリストに並ぶ。Pをキャップとして取材班が組まれ、平成28年元旦号の1面トップを飾るべく、取材を進めていった〉
要は、読売の記者が政府の特定秘密に関係するような“特ダネ”をつかんだというものだ。こう続く。
〈一方、捜査当局はPらの動きを凝視。特定秘密保護法違反第一号事件として、元旦号と同時に内偵を進める予定だった。しかし、読売社会部は首相官邸と同紙政治部の軍門に下った。読売の首脳陣と政治部が社会部P班の取材手法に難色を示し、「特定秘密にかかわる」と自己規制の論理で記事はお蔵入りとなった〉
そしてこんなふうに締めくくられている。
〈激しい水面下の駆け引きの末、原稿は闇に葬り去られた。特定秘密保護法が権力腐敗を隠蔽する象徴的な案件と言えよう〉
あくまで出所不明の「怪」文書であり、内容を鵜呑みにすることはできないが、報道機関の取材が政治的介入でつぶされたのが事実とすれば、ことは重大である。
読売新聞グループ本社広報部は文書で、
「『握り潰された読売スクープ』とする書面には、一片の事実もなく、すべてが虚偽もしくは捏造された悪意に満ちた怪文書です。そもそも当社及び当社の記者が、『特定秘密に関わる資料』を入手し、取材をしていたとの事実は一切ありませんし、『取材結果を、元旦紙面に掲載する予定だった』との事実もなく、よって『記事が見送られた』という事実などあるはずもありません」
と怪文書の内容を全否定した上で、「怪文書で名指しされた当社の記者は(中略)『社会部次長』ではありません。このように上記怪文書は、当社にとって名誉毀損も甚だしい内容です」と怒りを顕わにする。
※週刊ポスト2016年2月5日号