中国の周恩来・元首相が同性愛者ではないかとの説が話題を呼んでいる。香港で出版された、中国専門家による書がその説を唱えているのだが、欧米メディアは「もともとそういう説はあった。さもありなん」と大々的に報じている。
これに対して、周恩来は中国では「国父」と尊敬されているためか、中国メディアは無視の姿勢だ。しかし、中国で活躍する香港の俳優が面白おかしく周恩来同性愛説を紹介したことから、大陸の左派系人士から「香港の芸能人が本土で金を稼ぎ、裏でわれわれの指導者を侮辱している」との批判が飛び出し、「周恩来は同性愛」をめぐりちょっとした騒動が巻き起こっている。
香港で出版された本は「周恩来の秘密情感世界」と題するもので、筆者は香港の中立系月刊誌「開放」(現在は電子版)の編集長だった女流ジャーナリスト、蔡詠梅氏。1948年四川省成都に生まれ、1980年代に香港へ移住。「香港時報」の論説委員などを経て1992年から2014年まで「開放」の編集長を務めている。
彼女は、19歳の周恩来が日本留学中に書いた日記のなかに、2歳年下の男性の“恋人”がおり、“恋心”を日記に吐露している部分があるのを発見。結局、周恩来はこの恋人と一緒にロンドンの大学に留学を決め、欧州で生活を共にしたとみられる。これが周恩来同性愛説のあらましだ。
これについて、米国では「周恩来同性愛説」は専門家の間ではこれまでにも何度か指摘されていたといわれる。ところが、それを立証する決定的証拠がなく、単なるうわさ話に過ぎなかったのだが、今回の蔡氏の本で、それが立証されることになったことから、米紙ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアは大々的に報じている。
だが、中国本土内では、まったくの無視。「中国の国父」である周恩来だけに、メディアは自己規制をしているようだ。
ところが香港の俳優、王喜が昨年12月末、自身のフェイスブックで周恩来について「同性愛なのか」と書いて、周恩来同性愛説が存在することを暴露。左派系人士の逆鱗に触れて、王氏が大々的に批判されたことで、国営テレビなどが収録済みテレビ番組で王氏の出演シーンをカットしたり、王氏の顔にモザイクをかけた。他のテレビ局も追随して、王氏は干されることになった。
これを欧米メディアは報じており、周恩来同性愛説をめぐって、欧米メディア対中国メディアの間接的な批判合戦の様相を呈している。
北京の知識人は「昨年、毛沢東について、国営テレビ局の著名な司会者が『我々を苦しめた』と批判したところ、テレビ局を追放されており、今回の王氏の件も同じ構図だ。『物言えば唇寒し』という文革時代をほうふつとさせ、言論統制が強まっていることを感じさせる」と指摘している。