甘利明氏がTPP担当相を辞任するきっかけとなった賄賂提供を「週刊文春」にて実名告発した「一式武」氏は、3年前、神奈川のベテラン県議(自民党)に土地開発がらみの陳情をし、そのとき賄賂を渡したと新聞社や警察へネタを持ち込んでいた人物である。
結局、捜査は行われず「告発未遂」に終わったが、この事件の前後は、一色氏が甘利大臣告発の舞台となった千葉県にある建設会社「薩摩興業株式会社」と独立行政法人都市再生機構(UR)の環状道路建設の補償金がらみのトラブル処理に本格的にかかわっていった時期にあたる。
週刊文春での告発によると、一色氏が薩摩興業(週刊文春では『S社』と表記)の「総務担当者」として甘利大臣の地元事務所で秘書にUR側との交渉を相談したのは2013年5月、陳情は成功し、3か月後の8月に同社はURから2億2000万円の補償金を得た。一色氏にとっては甘利事務所との関係が良好だった時期だが、いざというときのために秘書とのやりとりはしっかり録音していたことを明かしている。
実は、一色氏は甘利氏告発に踏み切る前、この千葉でも甘利氏の名前を利用して地元議員とトラブルを起こしていた。次の標的にされたのは千葉県議のT氏(自民党)だ。
2014年4月、西船橋で甘利氏の後援会「千葉県甘山会」の発会式が開かれ、甘利大臣も出席した。実はこのパーティを実質的に取り仕切っていたのが、当時「千葉県甘山会」を作るために動いていた一色氏だった。
パーティには10人ほどの若い女性アイドルが呼ばれて壇上で踊るイベントが行なわれ、会が終わると彼女たちが出席者を出口で見送った。パーティに出席したT県議は同行の出席者たちに「お持ち帰りできるのかね」と軽口を叩きながら退出したという。すると数日後、T県議は一色氏にこう問い詰められた。
「甘利先生の神奈川の後援者たちが、あの発言は品がないといっている」
そうクレームをつけてきたのだ。T県議が否定しても、録音していたという。呼び出しは再三にわたった。T県議は県警に相談し、この件は千葉県議たちの間にたちまち広がった。『週刊ポスト』編集部が事実関係を確認すると、T県議はこう認めた。
「一色さんが『甘利さんの地元の後援者から苦情が来ている』としつこいから、『それなら私が神奈川にいって謝ろう』と提案したんです。ところが、『後援会の誰が苦情をいっているか明らかにするわけにはいかない』と妙なことを言いだした。それで暗にカネを出せといいたいんだなとピンときて、警察に相談したのは事実です」
甘利氏は千葉後援会立ちあげの陰で、発会式を仕切っていた一色氏が自分の名前を使って県議にクレームをつけ、警察沙汰にまでなっていたことをどう受け止めるのか。
※週刊ポスト2016年2月12日号