2月に始まったアメリカ大統領選挙の予備選では、共和党候補を目指す不動産王のドナルド・トランプ氏が、相変わらず差別主義とも取れる過激発言を連発しながら話題を独占している。
各種世論調査での支持率ダントツ1位で臨んだ初戦のアイオワ州党員集会ではまさかの敗北を喫したが、9日に行なわれた第2ラウンドのニューハンプシャー州予備選では勝利を収めた。東洋英和女学院大学教授(アメリカ政治思想)の中岡望氏が解説する。
「トランプ氏が勢いを取り戻したかに見えますが、本番はこれからです。予備選は各州に割り振られた代議員の獲得数を競うもので、これからが“大票田”となる州の選挙戦になります。
トランプ氏はメキシコからのヒスパニック系移民やイスラム教徒への差別的発言を繰り返しています。2月20日に予備選が行なわれるネバダ、サウスカロライナなどの州は代議員数が多く、かつヒスパニック系住民の割合が高い。トランプ氏は苦戦するでしょう」
3月1日には南部を中心に多くの州で同時に予備選が行なわれる「スーパーチューズデー」がやってくるが、南部の大都市には大規模なイスラム教のコミュニティもあり、やはりトランプ氏は不利とみられている。
「選挙戦が進めば脱落した候補者の票が反トランプで残った候補に集まり、快進撃は続かなくなる」(同前)
しかも、そうした先行き不安な選挙戦以上に、トランプ氏が「身の危険」を感じる事態が生じているというのである。中岡氏がいう。
「昨年12月に現地のニュースサイトで報道されたところによると、ネット上でイスラム教徒によるものとみられるトランプ氏への殺害予告が次々と書き込まれ、シークレットサービスの警護がつくようになったそうです。『イスラム教徒はアメリカに入ってくるな』などと発言しているのですから自業自得の面もありますが、ここで発言を軟化させれば支持を失うことになるから、本人としては引くに引けない状態でしょう」
オバマ政権を厳しく批判しながら、暗殺予告に怯えて政権に庇護をお願いするとは、なんとも情けない話。
※週刊ポスト2016年2月26日号