この四半世紀、日本女子マラソンの五輪代表選考は、数々の悲劇を生んできた。1992年のバルセロナ五輪出場を巡っては有森裕子と最後の1枠を争った松野明美が涙を飲み、1996年のアトランタ五輪では、選考レースで最速のタイムを出した鈴木博美が落選した。
2012年のロンドン五輪代表選考にあたっても、世界選手権で5位に入賞した赤羽有紀子が、後の選考レースで他の選手が好成績を収めたことで、最終選考レースとなる名古屋で再チャレンジを試みた。しかし、故障が響いて8位に終わり、代表入りを逃している。
今年1月31日に開催された大阪国際女子マラソンで、2時間22分17秒というリオ五輪派遣設定記録より13秒速いタイムを出して優勝した福士加代子(ワコール)にも、同じような悲劇が起こってしまうかもしれない。リオ五輪代表に選ばれないことを恐れてだろう、福士は、わずか42日後に開催される3月13日の最終選考レース、名古屋ウィメンズマラソンへの出場を明らかにしている。
野口みずきを2004年のアテネ五輪金メダリストに育て上げた元ワコール陸上部監督・藤田信之氏は、福士が名古屋に出場することを「ナンセンス」と切り捨てる。
「福士の力やったら、でーんと構えて待っていたらええのんちゃうの? 名古屋に出る必要はない。どう考えたって、福士の記録を超えて走るような選手は名古屋の出場者にはいないやん」
福士で決まりという見解を示したうえで、選考方法に疑問を呈する。
「過去には、(世界選手権で)メダルを取らないと代表に内定せえへん言うてたのを、わざわざ基準を下げて入賞(8位以内)にしたのは問題やった。国内の選考レースが3つもあるのもどうか。一発勝負にすべきやと思う。そうしたら、気象条件がどうのこうのとか、難しい話がいらんやん」
一方、大阪国際で解説を担当したスポーツジャーナリストの増田明美氏は現在の選考の仕組みに理解を示す。
「たとえば花粉症がひどい選手は、3月の名古屋ではなく1月の大阪を走りたいでしょう。どの大会を走るかを選手が選び、そこで勝って、五輪に出場できるかどうかを評価してもらう。これは日本マラソン界の伝統であり、文化なんです」
福士が挑む無謀な賭けは、吉と出るか、あるいは──。
※週刊ポスト2016年2月26日号