2月23日、分裂劇の立役者であり、神戸山口組の総本部長である正木組・正木年男組長の本部事務所に5発の銃弾が撃ち込まれた。その真意はどこにあったか。暴力団事情に詳しいフリーライター・鈴木智彦氏が指摘する。
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福井県敦賀市に銃声が鳴り響いたのは午前9時55分頃、そのうち1発が2階の事務所の窓を割り、もう1発が事務所前に停めてあった車のフロントガラスを粉砕した。急行した福井県警の警察官が、現場近くをうろついていた山口組系の組員を銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕し、怪我人などはなかった。
〈ついに抗争が始まった〉
暴力団社会はいきなり賑やかになった。
事務所への銃撃は「カチコミ」と呼ばれ、暴力団の間では明確な報復の意思表示であり、宣戦布告の意味を持っている。拳銃の使用は発射罪などが加重され、逮捕されればそれだけで5~7年という割に合わない懲役だ。それが覚悟の重さを示している。これまでのような不測の事態とは異質で、ついに開戦という緊張感が漂った。
ところがこの事件には疑問点が多かった。本来、事務所への襲撃は警察の警戒が緩みがちな時間帯、まだ周辺が暗く、逃走が容易な明け方に実行されるのがセオリーである。まして殺し合いを覚悟している神戸山口組の大幹部の事務所に、街が動き出した時間を狙って銃撃するのは、合理さに欠ける。
「状況だけみれば、『捕まえてくれ』といってるようなもの。逃げるつもりはまったくなかったのだろう」(警察関係者)
最初は浮き足立っていた他団体の幹部も、事件の詳細が報道されると首を傾げるようになった。
「逮捕された組員がそれなりの現金を所持し、バッグに衣服が入っていたと聞いている。旅支度を整えてから犯行に及んだのなら、個人的に追い詰められ、逮捕を前提に襲撃した可能性がある」(他団体幹部)
背後に覚せい剤がらみのトラブルがあったという噂も出ている。
山口組の本格抗争を待ちわびているマスコミ各社はここぞとばかり煽るだろうし、暴力団たちもそう喧伝するかもしれない。どんなことであれ、自分の有利に曲解するのは暴力団の性質だ。
事件が続けば、いつか大爆発を誘発しかねない。火薬庫で煙草を吸うようなトリッキーな事態は、互いが棲み分けを容認するまで終わらない。
※週刊ポスト2016年3月11日号