日本が中国に敗れたインドネシアの高速鉄道受注。ジャカルタ・バンドンの約140kmを結ぶこの路線は当初、中国はすぐに工事に着手し、3年以内の完成を宣言したが、2月半ばになっても工事が始まる気配がない。当時の様子を、ノンフィクションライター・水谷竹秀氏が現地からレポートする。
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インドネシアの有力紙コンパスは2月1日付の電子版で、「今回の高速鉄道事業では、インフラ整備における中国からの苦い経験を繰り返すことはない」と楽観視するリニ国営企業相のコメントを掲載した。「苦い経験」について具体的な案件への言及はなかったが、中国による過去の援助が政府内部でトラウマになっていたことを示唆する発言だ。
12日付では「運賃収入だけでは高速鉄道事業は赤字になる」と題する記事が紹介され、悲観的な観測が伝えられた。
私がジャカルタ入りした時点で主な争点になっていたのは【1】政府保証の有無をめぐる議論が浮上、【2】事業主体の合弁企業が提出した書類が中国語で記載され、政府関係者が理解できない、【3】高速鉄道路線が活断層を通過する、の3点。これが理由で運輸省は建設許可を認めず、着工できない状態が続いていた。
運輸省幹部は私の取材に対し「すべての規準がクリアすれば建設許可は出す」と述べたものの、時期については明言を避けた。事情に詳しい日本政府関係者は語る。
「中国案は2018年末に完成予定だが、あまりに短期間なので本当にうまく進むのかは疑問だ。実際、去年の秋に着工すると宣言しておきながら、着工式は今年1月に延期された。その段階からズレが生じている。今後何が起きるのかという不安はある」
では仮に日本案が採用されていたとしたら、万事円滑に進んだのだろうか。国営企業省幹部によると、政府保証の有無以外に、中国案と日本案の違いは、高速鉄道の路線だ。中国案はジャカルタバンドン間を走る高速道路に近いルートを取ったのに対し、日本案はこの区間を走る国鉄路線に近いルートだった。