独裁化を進める習近平・主席にとって目下最大の関心は、共産党によるメディア規制の強化に違いない。習氏に関する「発禁本」を扱う香港の書店員が、拘束された騒動にそれはよく表われている。その発禁本とは一体どんなものだったのか。本誌は全文を入手し、その内容を確認した。(取材/西谷格=ジャーナリスト)
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習氏は2月19日に人民日報、新華社、中国中央テレビ(CCTV)を視察し、「官製メディアは党と政府の宣伝のための陣地だ」と断言した。その言論統制に刃向かう者は、容赦なく排除される。視察の翌日、地方紙「南方都市報」の女性編集者が習氏の視察を揶揄したとして、即刻解雇された。
その最大の犠牲者が、中国本土に拘束されている香港の書店員たちである。中国本土に持ち込みが禁止されている“発禁本”を取り扱う香港の「銅鑼湾書店」の関係者5人が昨年10月から12月にかけて次々拘束された事件は、いまなお、うち3人が拘束されたままだ。
香港では中国共産党幹部の過激なゴシップ本が秘かに人気を集めており、発禁本を取り扱う書店はほかにもある。なぜこの書店だけが狙い撃ちされたのか。
拘束が相次ぐ渦中に英ガーディアン紙の取材に応じた書店関係者は、「彼ら(当局側)はあの本と関係のある人間を拘束して、本が出ないようにしているのだろう」と語っていた。この関係者も取材の3週間後に拘束されている。
「あの本」とは、『習近平とその愛人たち(習近平与他的情人們)』という題名で、同書店が版元となって発売に向けた準備を進めていたものだ。その最中に関係者が拘束されたため、現在にいたるまで発売されていない。
だがこの本の存在は、いまなおくすぶり続けている。1月と2月の二度にわたり、一瞬だけ電子書籍として発売され、いずれもすぐさま発売停止となったのだ。ニューヨークに住む著者で民主活動家の西諾氏は英BBCの取材に、それは自分のしたことだと認めた。
「ネット上で出版したのは、中国に対する挑戦だ。銅鑼湾書店の関係者5人はこの本のために責任を負うべきではない」
いったいこの本の何が、習近平をそこまで刺激したのだろうか。