山口組が「六代目山口組」と「神戸山口組」に分裂してから約半年、両者の衝突が急速に激化するなか、ついに警察は殺し合いを待たずに「抗争」と認定した。そんな中、警察にも異変がおきているという。フリーライター・鈴木智彦氏が指摘する。
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警察にはセクト主義という大問題がある。日本のシステムは自治体警察で、警察官は各都道府県が管轄する地方公務員なのだ。警察庁はあくまで省庁だから、実際の取り締まりはそれぞれの警察組織に一任される。暴力団が広域化し、全国のあちこちで事件を起こすというのに、捜査はそれぞれの地方の警察がバラバラに管轄するのだから、暴力団のほうが先進的ともいえる。
警視庁と神奈川県警、大阪府警と兵庫県警、福岡県警と佐賀県警など、隣接する県警同士に強烈な縄張り意識が存在する。当然、地元警察が事件を仕切る。暴力団はこのぎくしゃくした人間関係を巧みに利用する。
「それぞれの県警にS(スパイの隠語)がいる。自分たちの所轄のことは教えてくれなくても、他の捜査情報なら教えてくれる。警視庁は神奈川県警から情報が抜けるので、暴力団事犯は連携できないと思っているらしい。我々にとっていい警官は、見返りをくれる人間」(神戸山口組幹部)
警察が暴力団取り締まりを重要視し、内部情報を探ろうとすれば、暴力団はその見返りを要求する。
たとえばある県警は、かつて暴力団に取り込まれた刑事の汚職が表面化し、ずぶずぶの関係にあった人間を現場から遠ざけた。しかし、背に腹は替えられず、閑職に追い込んだ刑事を現場に戻しているという。
「暴力団との癒着がうるさく言われるようになったあとも、情報をとってくる能力のある刑事は、他団体の書状の現物をその日のうちに入手する。でもそんな刑事は全国でも何人かしかいない。どの警察も自分たちの管轄で遅れをとれば不名誉になる。情報収集能力があっても警察のネタを漏らしてしまう“危ないデカ”があちこちで戻って来ている」(山口組幹部)
暴力団たちは冷静に警察を観察している。
とはいえ、ヤクザは決して国家権力には勝てない。警察がメンツを潰されれば、最終手段を講じてくる。幹部たちは微罪で収監され、誰かが長期刑という犠牲を払わされるだろう。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号