3月11日の参議院本会議で、安倍晋三首相が待機児童問題に関連し、「保育所」と答弁すべきところを「保健所」と言い間違える一幕があった。首相は「保育所」と言い直したものの、議場が騒然となり、その後、野党から批判を浴びた。なぜ首相は誤読してしまったのか。駒沢女子大学教授で心理学者の富田隆氏が心理的な背景を分析する。
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精神分析のフロイトは、言い間違いや行動のミスは偶然ではなく、その背景に、無意識の要素が潜んでいると言っています。今回も無意識のプロセスが働いていると思います。
安倍首相が保健所に対して、どんなイメージを持っているのかが問題となってきます。ポジティブなのかネガティブなのか、それによって、言い間違いの意味が違ってきます。
保健所というのは全国的にあるもので、必要性もみんなが理解していて、必要な数がある施設。それと同じように、保育所もこれから増やしていくんだ、という思いが強くあれば、ポジティブな意味になりますよね。
しかし、保健所について、ネガティブなイメージを持つ人も少なくないと思うんです。保健所で野良犬、野良猫が処分されているということは、周知の事実です。すると、あまりポジティブなイメージを持ちませんよね。
ネガティブなイメージのものをポンと言ってしまうのは、首相が抱えている待機児童問題、保育所をさらに増やしていかなければいけないことに対して、降りかかった火の粉のように考えている、つまり、やらざるを得ないこと、仕方がないことと、ネガティブにとらえている可能性はあります。
決めつけることはできませんが、どちらの可能性もあるということです。
もちろん誰でも、疲れるとミスが増えます。ただし、ついうっかりミスの背景に、そうした無意識のプロセスがあると心理学では考えます。保育所を、同じような施設として「幼稚園」と言い間違えることはありますよね。いろんなミスの可能性がある中で、「どうして保健所なの?」という点が今回は、問題視されていると言えます。
その場合に、さきほど述べたように、保健所についてどういうイメージを持っているのか。ネガティブなのかポジティブなのかで、話が違ってくるのです。
安倍首相の誤読の3日後、自民党の藤井基之議員も、同じように保育所を保健所と言い間違えてしまいました。その理由は、安倍首相と異なると思います。
先に安倍首相の間違いがあり、とても印象的なシーンだったので、皆さんが憶えているわけです。すると、自分は同じ間違えをしちゃいけないと思うわけです。それを強く意識しすぎてしまうと、ミスしてしまうということがあります。
2人の誤読は、議場でもメディアでもバッシングされました。同じような立場の方は、2度としてはいけない間違えだと今、思っていることでしょう。その思いから、安倍首相や藤井議員と同じ誤読をしてしまう人が現れるかもしれません。