伊勢志摩サミット(5月26~27日)の主要議題となる世界経済情勢について有識者の意見を聞くために開かれた「国際金融経済分析会合」で、2人のノーベル賞経済学者が「増税先送り」を進言した。これで、来年4月に予定されている消費税10%への増税凍結の流れが決定的になった。
3月16日の初会合では、米国コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が「今は消費税率引き上げのタイミングではない」と語り、22日の会合でも米国プリンストン大学のポール・クルーグマン名誉教授は、「日本はデフレを脱するスピードに達しておらず、消費税率アップを今やるべきではない」と強く説いた。
今回、官邸内では国際金融担当の内閣官房参与、浜田宏一・米イエール大学名誉教授や本田悦朗・明治学院大学客員教授らがいち早く「再増税は絶対にすべきではない」などと増税慎重論を主張していた。そのうえ、わざわざノーベル賞学者を招いたのは、ブレーンたちの意見だけでは増税延期に強く反対している財務省の抵抗を跳ね返せないと見たからだ。
官邸のインサイド取材に定評がある長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹が語る。
「安倍総理は現在の経済状況では消費増税は無理だと判断している。しかし、早い段階でそれを表明すると財務省との大喧嘩になり、自民党内の麻生太郎・財務相や谷垣禎一・幹事長はじめ財務省寄りの勢力と全面戦争になってしまう。それを避けるためにノーベル賞学者たちの意見を聞くパフォーマンスで巧妙に増税先送りの環境づくりをした」
作戦は功を奏し、参院選を控えた自民党内には増税延期待望論が広がり、財務省も増税延期を覚悟せざるを得なくなった。
「総理の決意は固い。官邸ではサミットに合わせて消費税率10%への引き上げを2年間ほど再延期するのはもはや既定路線となっている。わが省にも官邸から、アベノミクスで税収が大幅に増えており、消費増税を再延期しても財政再建の先送りにはならないというサミット用の資料を用意するように指示が出ているくらいだ」(財務省中堅官僚)
増税が2年延期であれば、消費税率10%実施は東京五輪直前の2019年4月ということになる。しかし、長谷川氏の見方は違う。
「安倍総理の本音は景気が本格的に回復し、日本経済が十分増税に堪えられるくらいに強くなるまでは増税すべきではないという考えです。財務省はなんとか増税再延期に期限をつけようと懸命ですが、総理は今回はあえて期限を示さないのではないか。その場合、2020年の東京五輪くらいまで、少なくとも安倍政権下では消費増税を事実上凍結することになるでしょう」
※週刊ポスト2016年4月8日号