チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相は本インタビューに応じ、チベット人対し、僧侶で、一般市民を問わず、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が中国当局によって行われていると語った。隣組制度を作り相互監視させたり、中国人の移住を進めて結婚を奨励する「混血政策」といった政策も行っている。それ以外にも環境破壊など深刻な問題も起きているという。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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最近、問題視されているのが中国によるチベット高原の環境破壊だ。これまでチベット自治区では約225万人がチベット固有の遊牧生活を送ってきていたが、中国はこれを「野蛮」と禁止。
コンクリート製のバラック建て住居が多数建設されている「キャンプ」へ遊牧民を強制移住させる計画が実行され、2011年1月には、143万人の農民と遊牧民がキャンプに移住した、と中国政府は発表している。移住に伴って接収した土地は「環境保護」の名目でダム開発や採掘が行われている。現在、政府による「牧草地の農地改造政策」施行により牧草地は過放牧となり、砂漠化がすすんでいる。
乱開発によって、温暖化が進み、氷河が消滅しつつあることも、国際的な環境団体によって警鐘が鳴らされている。
センゲ氏によれば、このままの状況が続けば、2050年までにチベット高原の3分の2の氷河が溶けてしまうという。
そして、「アジアにはチベット高原の氷河を源流とする大きな河川が、ガンジス川や揚子江、黄河など10以上あり、20億人以上の水源となっているだけに、中国によるチベット高原の乱開発や人口増によって、さらに温暖化が進めば、将来的に貴重な水資源が失われることになりかねない」と警告を発する。
センゲ氏は「私は1996年から、15年間、ハーバード大学で学び、その間、中国人学生から大学教授、政府要人ら多数の中国人と知り合ったが、彼らは私がチベット人だと知ると『ロブサン、お前が中国に来ても、絶対に私と連絡を取るなよ。メールもだめだ。そうなれば、官憲が私たちをマークし、私たちの将来はなくなってしまう』と心配していた」との個人的な体験談を語った。そのうえで、こう強調した。
「中国におけるチベット問題は極めて敏感な問題だ。ダライ・ラマ法王はこのような悲劇的な状態を終わらせるためには『中国との対話しかない』と主張している。習近平指導部は話し合いを拒否するのではなく、多くの問題解決のため、できるだけ早くわれわれとの対話に応じるべきだ」
※SAPIO2016年4月号