今なお日本には、女性もしくは男性に限って立ち入ることのできない聖域がある。兵庫県の舟木石神座、石川県の石仏山、奈良県の大峯山などは女人禁制がいまだに守られている。
一方、沖縄の場合は男女の意味づけがまったく逆になる。日本の中で、奄美大島の北、トカラ列島付近に文化的な境界があり、そこから南では神事は女性が行うことが通常の社会で、血の穢れの観念がないどころか、女性が男性より霊的に優位である。
各地域で神事を行うカミンチュ(神女)やノロ(祝女)、個人の願いを聞き届けるシャーマンのユタは大半が女性である。だから、神聖な地には女性のみが立ち入りを許され、女人禁制は存在しない。男子禁制の霊場にはかつては琉球国王であっても入ることはなかったし、国王の姉妹は、聞得大君という国の最高の神女であった。
久高島で12年に1度行われるイザイホーと呼ばれる神女誕生の儀式と、その舞台であるフボー御嶽は男子禁制。新たな神女のなり手不足の問題から、1978年を最後にイザイホーは途絶えている。
一方、斎場御嶽(セーファウタキ)は琉球民族の祖霊神アマミキヨが作ったとされる聖地。観光マナーの悪化から、この地を管理する南城市では、かつてのしきたりである男子禁制の復活を検討している。
【プロフィール】鈴木正崇 (慶應義塾大学名誉教授)すずき・まさたか:1949年東京都生まれ。文学博士。文化人類学者。民俗宗教、祭祀芸能の比較研究、民俗社会を中心とする日本文化論が専門。『女人禁制』(吉川弘文館刊)、『山岳信仰』(中公新書)など著書多数。
※SAPIO2016年4月号