2020年東京五輪の公式エンブレムの最終候補4作品が発表された数日後。東京・青山でデザイナーの佐野研二郎氏の姿をキャッチした。記者が「週刊ポストです。佐野さんですか?」と声をかけると、キョトンとした表情で緊張気味に「はい」と答えた。“パクリ騒動”の頃より少しふっくらした印象で、うっすら口ヒゲもたくわえている。
五輪の公式エンブレムのデザイン問題は迷走が続いており、最終候補となった4作品には専門家から「凡庸だ」「独自性に乏しい」との批判が相次いだ。旧エンブレムの審査委員を務めた平野敬子氏は、自身のブログで「(再選考は)『A案』ありきのプレゼンテーション」と批判。同じく前回の審査委員である日本グラフィックデザイナー協会の浅葉克己会長からは「佐野さんの作品の方が良かった」という発言まで飛び出した。
となれば、名前の挙がったご本人に聞いてみよう。そう思い立った本誌記者は、佐野氏に「新たな最終候補A~Dの4作品のどれがいいと思うか」という意見を求めるべく直撃した。佐野氏の事務所の裏口前で声をかけると、少し驚いた後、柔和な表情で応じた。
──今、佐野さんのエンブレム案を再評価するという声が挙がっていますね。
「(軽く会釈しながら)とんでもないです」
──ところで、佐野さんは新案4作品の中で公式エンブレムとしてどの作品が良いと思っているかうかがいたく……。
すると、とたんに表情を強ばらせ、「いいえ」とぶっきらぼうに答え、扉を開け建物に入ろうとする。記者が印刷した4つの図案を見せようとすると、それを遮って、
「ちょっと、これから会議なので……」
そう口にしてビルに入り扉を閉めてしまった。
佐野氏の立場ではどの案も推せないのは致し方ないか。佐野さん、蒸し返してスミマセンでした。
※週刊ポスト2016年4月29日号