3月末、公正取引委員会が朝日新聞に「押し紙」問題で「注意」を行なった。押し紙とは、新聞社が販売店に実際の宅配部数以上の新聞を押しつけて買い取らせること。販売店は折り込みチラシの利益で買い手のいない新聞代を支払い、見せかけの公称部数を支えてきた。だが、押し紙は独占禁止法で禁止されているうえ、発行部数の水増しは広告主に対する詐欺行為にあたるとして問題視されてきた。
これには伏線があった。2月15日、杉本和行・公取委委員長は日本記者クラブで行なった記者会見で「公取委は押し紙を禁止しており、きちんとモニターしているところだ。実態がはっきりすれば必要な措置をとる」と発言していたのだ。
なぜ公取委が調査に入ったのは朝日だったのか。朝日社内には「ウチが反政権寄りだから狙い撃ちされた」という見方もあるが、果たしてそうなのか。
興味深いのは、杉本氏の「押し紙規制」発言を引き出したのが、当の朝日新聞の記者の“自爆”とも思える質問だったことだ。杉本会見のやりとりを再現する。
質問したのは朝日新聞のO記者。ライブドア事件など数々の経済スクープを飛ばし、原発問題では東電を厳しく追及した敏腕記者として知られる。司会を務めていた朝日の編集委員からの指名に、「朝日新聞のOといいます。せっかく日本記者クラブの講演だということなので、マスコミ業界のことをお尋ねしたいのですが」と前置きして、こう質問したのだ。
「2年前、朝日新聞では大変な大騒動が起きまして、従軍慰安婦の問題とか吉田調書などの問題で大きく部数が落ちました。私も販売現場でどんなことが起きているのだろうかと思って販売店を調べに行った次第なんですが、そこでお話を伺うと相当の押し紙というものが横行していると。
みんな新聞社から配達されて、(新聞が)ビニールにくるまったまま古紙回収業者が回収していく。私が見聞きしたところだと、25%から30%くらいが押し紙になっている。どこの販売店主も何とかしてほしいのだけれど、新聞社がやってくれない。おそらくこれは朝日に限らず、毎日、読売、日経もみな同じような問題を抱えていると思うのですね。そこで押し紙の問題については委員長、どのようにお考えになっていますか?」
朝日の記者が自社の押し紙という不正行為を暴露して当局の見解を求めたのだから、会見の場を利用した“公開内部告発”というほかないだろう。
※週刊ポスト2016年4月29日号