出版した写真集は217冊、雑誌も含め撮影したモデルは4000人以上──。写真家歴40年以上の渡辺達生氏が、女優・アイドルとの忘れられない撮影秘話を明かす。
渡辺氏の数多い作品の中でも、代表的なのはやはり1989年に撮影された武田久美子の「貝殻ビキニ」である。実はこれは武田本人の発案だった。渡辺氏が目を細めて語る(以下、「」内の発言は渡辺氏のもの)。
「前日、食事中に出てきたホタテを見て閃いたみたい。それでアシスタントに土産物店を回ってもらって、同じ色・形の貝殻を探してきてもらった。撮影はハワイのノースショア。話題になって良かったよね。今でも近所の人から貝殻、貝殻っていわれるくらいだから(笑い)」
もう一つの代表作は1993年発売の川島なお美の『WOMAN』だ。売り上げは55万部の大ヒット。ヘアヌードブームにおける象徴的な作品となり、また、川島にとっては大女優へステップアップを図るきっかけとなった。同写真集にはヌードだけではなく、印象的なモノクロの写真が多用されている。
「モノクロ写真は実家に撮りに行ったのを覚えています。実家といえば、彼女はお父さんが裁判官で、本当は写真集は退官してから出版しようとしていた。でも退官が延びちゃって、結局在任中に本が出ちゃったんだけどね(笑い)。彼女とはその後も長くお付き合いをさせてもらいました。亡くなったのが本当に悔やまれる、美しい女性でした」
そしてもう1人、渡辺氏が印象に残るモデルとして名前を挙げるのが葉月里緒奈だ。
「数だけなら一番撮ったんじゃないかな。フィルムで換算すると何千本というレベル。デビュー当初から何度も現場をともにしましたよ」
強気な性格に見られがちな葉月だが、渡辺氏の作品では屈託のない笑顔を見せている。
「よく笑うし、よく食べる。気分屋といわれるけど本当に素直な子だったよ。強気なイメージなんてない。撮っていると、表情がコロコロ変わるから面白いんだよね」
※週刊ポスト2016年4月29日号