熊本地震の原因となったとみられる活断層は日本中いたる所に潜んでおり、それは東京など首都圏にもある。専門家によれば、大都市は河川の土砂や火山灰などが堆積してできた土地が多く、それに覆われて活断層が見えづらいという。
埼玉県飯能市の「名栗断層」と東京都青梅市、立川市を経て府中市に至る「立川断層」からなる「立川断層帯」は、政府が都内で唯一地震活動を想定している活断層だ。東洋大学社会学部の渡辺満久教授(地理学)は、これらエリアの危険が高まっていると話す。
「東日本大震災の後に地震発生の確率が高まり、東京・多摩地区や埼玉県南部、神奈川県北部などの首都圏の広い地域でM7.4の地震が発生し、死者は最大6300人と想定されている。
そのため立川断層南端には地震発生時の拠点となる災害医療センターなど重要施設が複数配置されているが問題もある。建物の耐震性を高めているものの、活断層地震特有の地表面のずれで倒壊してしまう恐れがあるからです」
さらに恐ろしいのは、都心部にも活断層の存在が疑われることだ。元日本活断層学会副会長の豊蔵勇氏が解説する。
「土木・建築工事などのボーリング調査の結果などをもとに調べたところ、JR田端駅近くから飯田橋駅付近を通り、外濠に沿って四ツ谷駅付近に至る延長約7kmの『飯田橋推定断層(推定断層は豊蔵氏らの研究グループが2012年8月に発表したもの)』があると疑われます。
その周辺には『九段推定断層』や『市ヶ谷推定断層』も平行して存在するとみられます。また銀座や浅草、築地、月島などにも複数、推定断層がみられる。特に飯田橋推定断層は首都の中枢を通っているため、仮に直下型地震が起きれば甚大な被害が予想されます」
豊蔵氏の指摘通り、これらの活断層は皇居や国会議事堂、迎賓館、霞が関官庁街などのすぐそばを通る。
飯田橋駅付近はJR中央・総武線のほか、外濠の下に地下鉄4線が乗り入れているため、地震が起きればここから大量の水が流れ込み、数千人単位で溺死者を出しかねない危険な地域である。武蔵野学院大学特任教授で地球物理学者の島村英紀氏が解説する。
「推定1万人が亡くなった1855年の安政江戸地震の原因も未だはっきりしていません。隅田川河口付近の被害が大きく、同地が震源とみられるが、堆積層が厚いところでは活断層はそもそも見えない。
活断層の特定は非常に難しく、そういう意味ではどの地域でも活断層が眠っている可能性がある。日本に住んでいる以上、安心できる場所はありません」
※週刊ポスト2016年5月6・13日号