国立感染症研究所によると、2013年の梅毒患者数は、全国で1200人を超え、2014年は1671人、2015年は2698人。今年になっても1月から3月の3か月で796人。すでに前年の2倍の患者数だ。
なぜ数年前から、若い女性に梅毒感染者が増えたのか。国立感染症研究所の細菌第一部長・大西真さんは、こうみる。
「たとえば夫婦のどちらかが偶発的に感染して、パートナーにうつしても、夫婦間で治療を完結すれば、感染は広がりません。しかし複数の相手と活発に性行為をする人の中に梅毒の菌が入り込むと、その男性、または女性が数人を感染させ、その人たちがまた何人かの人たちにうつす。こうして2013年からネズミ算式に増えているのが梅毒急増の現状と考えています」
大手婦人科医院の新宿レディースクリニック副院長の釘島ゆかりさんは別の見方をする。
「ここ数年で、男女間の『普通』が、大きく変わってきました。出会い系サイトは20年前からありますが、スマホの普及により、LINEを駆使して出会うことが『普通』になったんです。
だから最近は、特別な職種でない一般の女性でも梅毒になる、と認識するドクターが増えてきました。可能性のあるさまざまな検査をすすめるようになり、その結果、早期に患者を発見できるようになり、患者数が増えたということもあると思います」
梅毒に感染したかどうかを知るためには、婦人科医院などの医療機関で血液検査をするのが一般的だが、日時の指定などの制約はあるものの、保健所で匿名、無料で検査する方法もある。
さらに、釘島さんは「梅毒に感染している」と告げた時の20代女性の反応に、「今」を感じるのだという。
「治療は数週間、合成ペニシリンをのみ続けて病原体を死滅させるだけ。いたって簡単ですが、パートナーも一緒に治療しないと意味がありません。
若い人は『彼にも病院に行くように伝えてください』と言うと、『はぁーい』ととっても素直。梅毒が恐ろしい病気という偏見もなく、ピンときていない様子で、男女関係が壊れることもほとんどないようです」
その点、梅毒に対する怖いイメージを持つ中高年夫婦のほうが、より深刻になるようだ。では、私たちが梅毒から完全に身を守るためにはどうしたらいいか。
アメリカなどでは、梅毒にかかりたくなかったら、パートナーとだけセックスすること、と言われているようだ。パートナーが変わった時は、性感染症の検査をして交換し合うブライダル・チェックのようなことをすすめている国もあるという。
ところで最近、感染患者の増え方が著しい20代女性と、40代男性はどこで接触するのか。「うちの夫はモテない」などと油断するなかれ。ハイリスクの20代のプロ、またはセミプロの女性と性交渉をして、家庭に菌を持ち帰ってくることだってあるかもしれないのだ。
※女性セブン2016年5月5日号