視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚という五感が何らかの理由でつながって感じられる「共感覚」とうものがある。たとえば、「あ」は赤、「い」は黄、「う」は緑といったように、文字とともに色が感じられるというのだ。
長い間、こうした感覚を持ち合わせる人は極めて珍しいと考えられてきた。研究者の間でも“10万人に1人”しかいない珍しい症例であり、“芸術家や天才に多い”ともいわれてきた。しかし最新の研究は、共感覚者を特別扱いする見方を否定している。
東京大学大学院教授で心理学を教える、日本における共感覚研究の第一人者の横澤一彦さんに聞いてみた。
「研究のために共感覚者を募ったところ、これまで80名もの人が協力してくれました。そのことから考えても、共感覚者が10万人に1人と考えるのは不自然で、おそらくその割合は、100人中1人程度だと推定されます」(横澤さん。以下「」内同)
100人に1人ということは、小学校なら1学年に2~3人はいることになる。
人間誰しもが共感覚を持っているわけではないが、「かといって特殊な能力とまではいえない」と横澤さん。
これは意外!? 19世紀の仏の詩人アルチュール・ランボオや、抽象画の創始者といわれる露の画家のカンディンスキーなど有名な芸術家には、共感覚者だったといわれる人が少なからずいる。だからこそ、共感覚がある種の天才を生み出す素養のように思われてきたのだが…。
「100人音楽家がいれば、その中に1人ぐらいは共感覚者がいてもおかしくない計算になります。彼らは芸術的な表現手段を持っているから、それを世の中に知らしめる術を持っていて、表に出やすいのだと考えると納得がいきます」
共感覚者の中に、たまたま芸術家がいたために、共感覚者=芸術家だとみなされてしまった。しかし事実は逆だった。芸術家になる共感覚者もいる、それだけのことなのだ。
それに、物心ついた時から共感覚が身についていたために、自分自身が共感覚者であると気づいていない人も多い。仮に自分の共感覚に気づいても、他人と自分の違いに不安になり、“あまり言わない方がいいかも”と、隠してしまう人もいる。
世の中に少なくない数の共感覚者がいるはずなのに、自分の周りに見当たらないのはそういう理由らしい。
実は女性セブンの記者の中にも、共感覚者がいる。といっても、偶然この企画の担当編集者が「誰か、文字に色ついて見える人いる?」と聞いてみたら、目の前の20代の女性スタッフが「私です」と手を挙げたのだ。なぜこれまで黙っていたのかと尋ねてみると、こう教えてくれた。
「中学の頃、社会科のテストで年号を覚えるのに苦労していた友達に、“色で覚えたら簡単なのに”と言ったら、変な顔をされたんです。それまでずっと、私は誰にでも文字や数字に色がついて見えるものだと信じて疑わなかったので、衝撃でした。でも、周りから変な人だと思われるのが嫌で、あれ以来、ずっと隠してきました」
共感覚者がかつて「10万人に1人」といわれてきたのも、このスタッフのように、そうであると名乗り出にくかったからだろう。
※女性セブン2016年5月5日号