「心の中で思っていても、相手に自分の気持ちは伝わりません。自分の心を言葉にのせて伝える。その方法のひとつが“言葉遣い”です」と話すのは、伝統ある礼法を伝える小笠原流礼法宗家の小笠原敬承斎さん。言葉遣いというと、正しい敬語を身につけることと考えがちだが、大切なのは使い方だという。
「どの言葉が今の状況に合っているか、相手が欲しているか、まず考えることが大切です。正しい言葉遣いを学んだからといって、お友達と話している時に、全て敬語で話しては、慇懃無礼にあたり、冷たい印象を与えることもあるでしょう。今の状況にどの言葉が適しているかを考えて、持っている言葉の引き出しからさっと出す。そのためにも、正しい言葉遣いを多く身につけておくべきなのです」(小笠原さん、以下「」内同)
しかし、話し言葉に慣れてしまい、正しい言葉遣いで話すことが難しい人も多いはず。
「まずは3か月、意識的に使ってください。いきなり10~20個以上の言葉遣いを正すのは大変ですので、日常生活でよく使われる、【1】はい(返事をする時)、【2】おそれいります(相手を気遣う時)、【3】左様でございます(同意をする時)、この3つから始めてみてはいかがでしょう」
初めは慣れなくても、3か月繰り返し使うと、自然と身につくと小笠原さんは背中を押す。自宅の壁などに正しい言葉遣いを記したメモを貼っておき、電話の時に気をつけるのもおすすめだ。手紙などの文字にすると、より記憶されやすくなるという。
最近は言葉の短縮化が進んでいると小笠原さんは警鐘をならす。
「日本人は直接的な表現をあえてしないことで、相手の気持ちを察して理解する文化を受け継いできました。そのため、言葉が短くなると自分の心を充分にのせられず、事務的で冷たく伝わる可能性もあります」
言葉というのは、時代によって移ろいやすいもの。だからこそ、正しい言葉遣いを“基本の柱”として知っておいたほうがいいのだ。
最近は、親と子、教師と生徒の関係性が友達感覚になり、日々の中で敬語を耳にする機会も減ってきている。だからこそ正しい言葉遣いを身につけておきたい。まずは、間違った言葉遣いについて、改めて意識してみよう。
※女性セブン2016年5月12・19日号