安倍晋三首相が掲げる『一億総活躍社会』に向け、社会保障の具体策を盛り込んだ『ニッポン一億総活躍プラン』がこのたび公表された。労働力不足の解消に向け「子供の貧困対策」「介護の環境整備」「障害者の活躍支援」などが盛り込まれたが、いずれも、現実からかけ離れた机上の空論であることに波紋が広がっている。
なかでも人手不足が深刻な保育士の問題について、「2017年度には、待機児童ゼロに」というスローガンを掲げ、給与の約2%にあたる「月額6000円アップ」、経験を積んだ職員には「月4万円程度上げる」と発表した。
これらに現場から怒りの声が上がっている。都内の公立保育園で働く山本彩夏さん(仮名、26才)は、大学卒業後保育士となったが、基本給は約17万円。そこに残業代2万円を合わせた19万円が手取りとなる。
「サービス残業は月に50時間を超え、土日出勤も当たり前。もちろん休日手当はつきませんよ。子供は好きだし、保育士は子供の頃からの夢でしたが、正直、あと何年、モチベーションが続くか…」(山本さん)
著書に『「子育て」という政治』(角川SSC新書)がある、ジャーナリストの猪熊弘子さんがプランの問題点を指摘する。
「今回の施策は“違うな”と思う点があまりに多い。まず給与アップの目安となる“2%”や“6000円”は“女性の平均給与に近づけよう”というのが前提なんですが、男性保育士も多い中、“保母さん”だった頃の名残をひきずっています。またベテランだと4万円アップという点も、“ベテラン”の基準が明言されていません。保育士不足は構造的な問題で、勤務時間の問題もありますし、給与を上げたからといって人が戻ってくるとは思えません」
ところが、厚生労働省の担当者に話を聞くと、今回の施策で、保育士の人手不足の解消に「効果があると思う」と胸を張る。
「賃金が低いということが、保育士になりたいと思ってもなれなかったり、あるいは辞めていったりする大きな要因の1つなので、そこに一定の風穴を開けることになりますから」
ちなみに今回の給与アップでは、無認可保育園で働く保育士は対象とならない。また4万円の基準については「現段階で具体化したものはなく、あくまで方向性が示されたとご理解ください」(厚労省・担当者)と言うばかり。
それにもかかわらず、全国で4万人を超えるといわれている待機児童を、2017年度中にゼロにするというのだから、あまりにも見通しが甘いのではないか。
※女性セブン2016年6月9・16日号