TwitterやInstagramの投稿に異変が起きている。写真に多数のハッシュタグをつけ本文テキストがほとんどない投稿が増えているのだ。「#」と文章の組み合わせがいくつも連なる投稿は、ハッシュタグが担っている同一テーマ検索の役割は果たしていない。なぜ、テキスト本文を記さず、ハッシュタグ作文をしているのか。ITジャーナリストの高橋暁子さんは、その行動を「SNSでの人間関係を円滑にするため」と解説する。
「投稿のリア充アピールが強すぎて反感を買ってしまいそうなとき、ハッシュタグに本音やツッコミをこめ、やわらげるため自然発生的に生まれた使われ方です。本文テキストはあくまで表向きの説明で、ハッシュタグはおまけの追加コメントや欄外、最後まで読んでくれた人に伝えたい本音などの意味を加える役割を果たしています。デジタルネイティブ世代にとって、ハッシュタグでの言葉はかわいい感じがして、許せる気持ちになるそうです。
ハッシュタグだけで会話のようになっているのは、英語の投稿ではみかけないですね。日本語ユーザー独特の使い方だと思います。かわいいハッシュタグの使い方の典型的な例には、タレントの渡辺直美さんのInstagramがあります」
日本人でもっとも多いフォロワー410万人を抱える渡辺直美のInstagramをみると、どの投稿にもハッシュタグが5~10はつけられている。たとえば6月8日にいとこの子どもを抱いた写真を投稿しているが、そこには「#完全に化け物と子」「#台湾の従姉妹が細くてスタイルいいから」「#でけー奴初めて見たのかドン引きしてた」など、写真にツッコミを入れる言葉が並ぶ。どれも、同一テーマで検索するには不向きだ。
ハッシュタグとは本来、言葉やフレーズの前に記号「#(ハッシュ)」をつけ、同じ分類の内容を検索して探すためのラベルのこと。2011年7月にTwitterが日本語ハッシュタグに対応すると、同一テーマでのネタを投稿しあう大喜利が流行した。大喜利のような使われ方は英語でもよく見られるが、2014年2月にInstagram日本語版公式アカウントが開設されて以降、徐々にハッシュタグ作文が増え始めた。
たとえば渡辺直美アカウントの投稿をさかのぼると、2014年末ごろからハッシュタグが多用され、だんだん作文になっていくのがわかる。ハッシュタグ使用の盛り上がりを察知してか、LINEが今年5月末からタイムラインにハッシュタグ機能を追加し、最近はデジタルネイティブではない世代からもハッシュタグ作文によるSNS投稿がみられるようになった。
「いまハッシュタグを多用している若い世代は、LINEを友人だけのクローズドな空間にして利用しているので、知らない人に発見される可能性がある今回の新機能は、あまり相性がよくないかもしれません。友だちとのコミュニケーションを円滑にするためだけに、ハッシュタグを使っているからです。
最近、大人世代がFacebookやTwitterで、頑張ってハッシュタグをたくさんつけているのをみかけますが、TPOに合わない使い方が目立ちますね。無理せず、普通に投稿したほうがいいですよ」(前出・高橋さん)
リアルな日常生活だったら、若者が楽しく会話しているなかに、中高年が割り込むことはないはずだ。ところが、SNSだと途端にその垣根を超えてやってくる大人がいる。若者のFacebook離れは、そんな大人たちが数多く出現したためだといわれている。非デジタルネイティブ世代が利用し始めたハッシュタグ作文によるコミュニケーションは、どのように変化してゆくだろうか。