日米通算安打数でピート・ローズ氏の持つメジャー記録(4256本)を更新したイチローの快挙は、賞賛と同時に大きな議論を巻き起こした。あくまでメジャーでの記録が「公認記録」であり、リーグをまたぐ日米通算はそれに及ばない「参考記録」に過ぎないのか──。
日米両国で様々な意見が飛び交う中、意外な反応を見せたのが韓国メディアだ。6月17日付の中央日報は〈4257安打、見事なイチロー〉と題した記事で好意的に報じている。
〈MLBは日本での記録を公式に認定していないが、ファンと選手たちはイチローが打ち立てた記録の意味を分かっており、祝辞を送った。日本での記録を加えることに否定的なコメントを行なったローズ氏は、1989年賭博スキャンダルに巻き込まれて永久除名された人物だ〉
他にも〈世界で最も多くの安打を放った男になった〉(聨合ニュース・16日)や〈イチローが日本のプロ野球を経ずに大リーグに行っていたら、すでにピート・ローズの記録を上回っていたという分析もある。約140試合の日本より、162試合の大リーグのほうがより多く打席に入れるからだ〉(朝鮮日報・16日付)など「イチロー擁護」が目立っているのだ。
もっとも韓国メディアにとって、イチローは憎悪の対象だったはず。
「韓国には向こう30年、日本に手を出せないという感じで勝ちたい」──2006年・第1回WBC開幕前にこう発言してから、イチローは常に目の敵にされてきた。
第2回WBCでは「高慢なプレーが目立つ」と名指しされ、東日本大震災の被災地に1億円寄付すれば「日本のスターの割に少ない」とあげつらったこともあった。それがいつの間に“味方”に変わったのだろうか。韓国メディアのスポーツ担当記者が解説する。
「ローズ氏の意見に同調すれば、李大浩(現・シアトル・マリナーズ)が韓国リーグで達成した9試合連続本塁打の世界記録や、李承ヨプ(現・三星ライオンズ)の日韓通算586本塁打など自国のヒーローの功績を否定することになりかねないですから」
イチローの記録にケチをつければまさに“天ツバ”。普段とノリが違うのは、そういうことだったのね。
※週刊ポスト2016年7月8日号