これほど盛り上がらない国政選挙があっただろうか。自民圧勝の予測に、メディアも有権者も、何より当の自民党自身が弛緩しきっている。かつての自民党なら、「アンダードッグ効果」と呼ばれる逆ぶれを恐れて総理総裁自ら引き締めを図っただろうが、いまは違う。投票日が近づくほどに党内の緩慢は、傲慢に化けている。選挙楽勝ムードで自民党内部にも緩みが目立ち、統制がとれなくなってきた。
定数4議席に自民党の三原じゅん子氏、公明党新人の三浦信祐氏、自民推薦の中西健治氏の与党3候補がひしめく神奈川選挙区では、安倍首相の応援入りにあたって、自民党県連会長の小此木八郎氏が所属議員に「三原氏以外の総理の街頭演説には行かないように」という文書を配布。他の2候補への動員と応援を禁じて内ゲバが勃発した。
さらに東京都知事選では、小池百合子・元防衛相の出馬表明で党内が大混乱に陥っている。自民党東京都連関係者が語る。
「参院選の東京は自民党の2人の候補がともに当選圏内だから都連幹部はすっかり安心して選挙に全然身が入っていない。
最大の関心は都知事選。過去2回、舛添氏と猪瀬直樹氏を立てて失敗した石原伸晃・都連会長や都議会のドンの内田茂・元都議会議長たちは櫻井パパ(桜井俊・前総務事務次官)ら官僚候補に出馬を打診し、それが無理なら野党が擁立に動いている片山善博・元鳥取県知事に相乗りしようという密室の候補者選びを続けていた。そこに小池氏がフライングで飛び出したから、幹部たちは“クーデターだ”とカンカンになっている」
都連側にはよほど衝撃だったらしい。小池氏出馬の当日、本誌の取材に自民党東京都連最高顧問の深谷隆司・元通産相は「彼女は出ないよ」と語っていたが、出馬表明したことを伝えると「ええっ。聞いていない。都連幹部たちが安倍総理や石原伸晃さんと話し合いをしていたところなのに」と絶句したほどだ。
都知事選は参院選と違ってメディアと有権者の関心も高く、世論の舛添批判のブーメランが自民党に向かってくる恐れがある。そこで官邸や東京都連幹部は当たり障りのない官僚候補か、与野党相乗りの候補を立てることで争点を隠し、批判のホコ先をかわしたいという意図が透けて見える。
そうした談合による“沈黙の選挙戦術”に反旗を翻した「百合子の乱」は、驕りの安倍自民党にとって蟻の一穴となるのか──。
※週刊ポスト2016年7月15日号