イギリスのEU離脱は、日本経済のみならず外交にも大きな変革をもたらすかもしれない。国際政治学者の藤井厳喜氏が語る。
「欧州のなかでも、キャメロン首相・オズボーン財務相のコンビは非常に親中的だった。人民元のSDR(特別引出権)構成通貨入りも、AIIB(アジアインフラ投資銀行)設立も、イギリスが認めたことで実現したようなもの。そのキャメロンが辞任すれば、次期政権は親中政権ではなくなるでしょう」
イギリスが親中的でなくなることは、日本にとって好機といえよう。
一方で日本がこれまで対中国のために強化してきた日米同盟には、暗雲が立ちこめている。次期米大統領候補のトランプ氏は「日本が駐留費を負担しないなら在日米軍を撤退させる」と言い放ち、対するヒラリー氏は中国絡みの金銭スキャンダルも出るなど親中派で知られる。どちらに転んでも、アメリカへの依存度は弱まることになる。
そこで、イギリスの出番なのだ。
「イギリスが親中から転換するのであれば、日米同盟とは別の抑止力として、イギリスと同盟を組むことが選択肢として考えられます」(同前)
“日英同盟”の復活である。
戦前の日英同盟は、日清戦争で勝利した日本に対し、フランス、ドイツ、ロシアの3か国が遼東半島を清に返還することを求めた三国干渉に対抗するために締結されたものだった。特に日露戦争においては、日英同盟が他国の参戦を牽制したほか、イギリス情報部の諜報活動など陰からの支援が勝利につながった。その後、第一次大戦後の軍縮の流れで日英同盟が消滅したことで、日本は第二次世界大戦の敗戦へと暗転していく。
つまり、イギリスと同盟を組んでいる間の日本は非常に順調だったのだ。ヨーロッパにおけるイギリスと、アジアにおける日本は、ともに大陸から切り離された島国で、それぞれの王室と皇室に対する尊敬心をもっているという点でも、親和性がある。
「対中国で考えれば、アメリカの足らざる部分をイギリスがかなり補えるはず。イギリスの情報能力には定評があり、中国に関するインテリジェンス能力も高い。歴史的経緯からイギリスはオーストラリアやニュージーランドとも親密なので、こうした国を日本の味方につけて中国包囲網を強化することもできるでしょう」(同前)
イギリスにしても、EU離脱で孤立することは望まないはず。1923年に失効して以来、約100年ぶりの同盟復活は、絵空事ではないのかもしれない。
※週刊ポスト2016年7月15日号