〈印鑑やめます〉──。そんな大見出しが新聞に躍ったのは5月20日のことだった(朝日新聞朝刊)。
りそなHDが、2019年3月までに傘下のりそな銀行・埼玉りそな銀行の全店舗で、「指の静脈認証」での口座開設が可能になると発表したのだ。同社広報担当者の説明。
「お客様の静脈データを近赤外線カメラで読み取り、事前に登録したデータと照合して本人確認をします。口座開設後は通帳・印鑑なしで窓口での現金引き出しや振り込み、投資信託の購入ができます。その他、貸し金庫の開設、紛失した通帳やカードの再発行にも印鑑は不要となります」
三井住友銀行でも今年度中に一部店舗で口座開設の際に文字の形や筆圧などを解析して登録する「サイン認証」を導入し、順次全店舗へ展開する予定だ。
ハンコとは切っても切れないイメージのある行政機関(役所)でも「印鑑不要論」が出始めた。千葉市では、2009年に31歳で市長に当選した熊谷俊人氏が2013年5月に再選を果たすと、自身のツイッターで
〈印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません〉
と発信。押印なしで各種申請が可能となるように改革を進めると掲げた。各所で話題の脱ハンコ論議──しかし、実はどこも「廃止」には至っていない。
千葉市では、市長の方針通り2014年6月から段階的に押印の義務付けを廃止しているが、あくまで「署名か記名押印かの『選択制』の導入」に留まっている。千葉市の担当者が説明する。
「申請者に押印を義務付けていた約3000種類の窓口手続きのうち、2000種類を選択制にしました。運転免許証などで本人確認はできているのに、“印鑑を忘れたから出直さなくてはいけない”という状況をなくすため、市で様式を決めている書類については選択制に変えた」(総務局業務改革推進課)
一方、国の法令などで押印が義務付けられた約1000種の手続き(婚姻、死亡など戸籍関係の手続きが主)は、ハンコが必要なままだ。
「市の取り組みは、“ハンコを無くそう”と考えてのものではありません。ハンコは日本の文化。あくまで、印鑑を忘れた方々の不便を解消するための手続き上の工夫です」(同前)
前述の銀行の取り組みにしても、静脈認証や電子サイン導入後も、従来通りの印鑑による手続きが選択できると説明されている。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号